建設業界の人手不足の実態は?今後はどうなるかを解説
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建設業界の人手不足の実態は?今後はどうなるかを解説

2021年4月1日

人々の暮らしと密接に関係している建設業。ビルや橋やトンネルなどの建設は、人々がよりよい生活を送るために必要不可欠であり、将来的にも更なる需要が予測されています。しかし建設業は、深刻な人手不足の問題を抱えており、業界発展に多大な影響を及ぼす可能性があるのです。

そこで当記事では「建設業の人手不足」と題して、現状の実態や人手不足を解決するために行われている施策について解説していきます。建設業界に興味のある方や、転職を検討されている方は必見です。

 

建設業界について

そもそも建設業界とは「土木」と「建築」の2つの業種を総称した呼び方で、それぞれ役割が異なります。
「土木」は主に、道路や橋、トンネルなどの人々が生活するために必要不可欠なインフラ整備を行う業種です。そのため仕事の特性上、ひとつのプロジェクトに長期間携わる特徴があり、基本的には3年〜5年、さらに長いときは10年ほどプロジェクトに関わる場合があります。
その一方で、「建築」はビルなどの建築物の新築・改築などに携わる業種で、担当期間は数ヶ月〜3年ほどが多いでしょう。ただし、新築ビルの設計期間やコンセプトの考案などを踏まえると、5年以上の歳月が必要な場合もあります。

建設業界の働き方は他の業界と大きな違いがあるため、建設業界へ転職を検討中の方は、業界の特徴を抑える必要があります。以下ではその2つの特徴について説明します。

プロジェクトの年数が長期

ものづくり業界の中でも特に建設業界は制作に時間がかかります。先ほど記載した通り、土木のプロジェクト期間は平均3〜5年で、建築でも1年〜3年の歳月が必要です。さらにプロジェクトの主担当者になると基本的に最初から最後まで物件を担当するため、担当期間中のジョブチェンジや他部門への転籍は難しくなります。
そのため、様々なチームを転々とするよりも、自分の仕事をコツコツと継続する働き方を希望する方に向いていると言えるでしょう。

 

技術職の世界であるため、日々勉強が必要

建設業は様々な材料や施工方法を用いて作業を行います。そのため新しい材料や最新の施工方法を常にチェックし、実際の現場で取り入れる必要があるのです。特に施工管理などの管理者の場合はたくさんの情報を把握する必要があり、情報収集や勉強は欠かせません。
そのため、ものづくりに情熱をもち、新しい知識を吸収することが好きな方に向いている業界と言えるでしょう。

 

建設業界が人手不足となったきっかけ

参照元:「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」国土交通省

平成の建設業界を振り返ると、リーマンショックによる「建設低迷期」と、オリンピックなどのイベント開催による「好調期」が存在し、これらは「人手不足問題」に大きく関係しています。
以下では人手不足となったきっかけについて解説していきます。

 

建設低迷期

建設業界が低迷し始めたのは、1992年のバブル崩壊後です。それまで需要の多かった都心の高級住宅や複数の商業ビルなどの建築工事は減少し、業界として勢いが弱まり始めました。そして2008年に起きたリーマンショックがきっかけとなり、建設業界は低迷期を迎えることとなります。
バブル期では73兆円の建設投資があったものの、2010年には42兆円まで減少しました。これにより、倒産した建設会社やリストラを実行した企業は多く、建設業界の人材が減った要因のひとつとなったのです。

 

好調期

低迷期の建設業界に変化が訪れたのは2011年でした。東日本大震災の復興工事が発生し、土木・建築ともに需要が増加しました。さらにアベノミクスによる公共工事計画の増加やオリンピックの開催などの特需が重なり、現在は多くの企業で繁忙状態を迎えています。しかし低迷期で起きた建設会社の倒産や従業員のリストラは痛手となり、多くの企業では従業員一人当たりの負担が大きく、仕事があふれてしまっている状態なのです。

建設業界の人手不足にはこのような背景があり、現在では改善するために政府や企業が様々な施策を行っています。

 

建設業界が人手不足の原因

以下では建設関連人口の減少が起こる原因について解説します。建設業界の人手不足問題には、大きく2つの理由があります。

作業員の高齢化

参照元:「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」国土交通省

まず一つ目は「作業員の高齢化」が挙げられます。国土交通省が作成したデータによると「平成27年時点で建設業の従事者の3割以上は、55歳を超える従事者である」という結果が発表されました。これは、あと10年以内に建設業に携わる3割以上の人材が引退することを意味します。
経験や知識が重要視される建設業界にとっては、知識や経験が豊富な人材がいなくなることは大きな痛手です。そのため作業員の高齢化は、建設業界の人手不足問題の根幹といわれています。

 

離職率の高さ

参照元:「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」国土交通省

そして二つ目は「離職率の高さ」が挙げられます。特に若手従事者は離職率が高い傾向にあり、29歳以下の従事者は全体の1割にも満たないという結果が発表されました。若手従事者の離職には大きく以下の3点があり、現在多くの企業で改善策を実施しています。

 

【年功序列】

第一に「年功序列」の風潮があります。建設業界は幅広い年齢層の従事者がいるため、他の企業では中堅クラスの年齢でも若手扱いされてしまう場合もあるでしょう。特に現場で働く作業員や管理者は、様々な価値観を持った人と仕事をします。20代〜30代の従事者は「実年齢」と「扱い」のギャップから、離職を検討する人も少なくないのです。

 

【賃金アップの難しさ】

第二に「賃金アップの難しさ」が挙げられます。特に現場勤務の作業員は短期的なスキルアップは難しいため、給料交渉の期間が長期化する傾向にあります。そのため、金銭的な喜びを得にくく、転職する方が多いのです。
やはり金銭面は自身のモチベーションにもつながる大切な要素であるため、近年建設業界では見直しを図っています。

 

【ハードワーク】

そして第三に「ハードワーク」である点が挙げられます。これは建設業界全体の問題ですが、人手不足によって従事者の重労働化が深刻になりつつあります。そのため20代〜30代の転職者が増加しており、若手従事者が減少しているのです。
しかし現在では「働き方改革」によって建設業界の働き方が見直されているため、この点に関しては少しずつ改善傾向にあると言えるでしょう。

 

建設業界に対する国の対策

建設業界の人手不足を解消するためには「従事者の満足度」を高める必要があります。これは根本的な改善が必要であることを意味し、現在では国や企業が様々な施策を行っています。
その中でも今回は、国土交通省が策定した「建設業働き方改革加速化プログラム」について紹介します。

●長時間労働の是正に関する取組み

建設業界にとって「ハードワーク」は深刻な問題です。これに対し国土交通省は具体的に以下の施策を行っています。
・週休2日制度の後押し
・適正な工期設定の推進

特に現場に従事する管理者や作業員は休みが取りづらいため、一週間休日なしで稼働することもありました。この状況を改善するため、国土交通省は国の直轄工事や公共工事を原則週休2日とし、建設従事者の休暇取得を後押ししています。この制度は民間工事には導入されていないものの、公共工事業者の働き方の変化は民間工事業者にも良い影響を与えるのではないでしょうか。
また、工期の設定の見直しも積極的で、無理のない労働環境の整備が行われています。

 

●給与・社会保険に関する取組み

続いて「賃金アップの難しさ」や「労働環境」の改善を図るために、国土交通省は以下のシステムを導入しました。
・建設キャリアアップシステム
・社会保険の加入必須

建設キャリアアップシステムとは、技能者の資格や現場の就業履歴などを業界を横断して登録するシステムで、さらに技能や経験にふさわしい給与が実現するよう、建設従事者の能力を評価する制度です。これによりスキルが客観視できるため、給与交渉がしやすくなり、若手従事者のキャリアアップが見込めると想定できます。

さらに国土交通省は従業員の安全を保証するために、社会保険の加入を絶対条件と定めました。これを怠る企業は建設業許可の申請や更新を認めない仕組みとなり、従業員が安心して働ける環境を整えています。

 

●生産性向上に関する取組み

そして「従業員への負担軽減」のために、国土交通省では以下を推奨しています。
・生産性向上に取り組む企業の後押し
・仕事の効率化を推奨
・限られた人材・資機材の効率的な活用を促進

これらは主に中小規模の建設企業の作業効率化を目的としたもので、従業員の負担を軽減させるための取組みです。
具体的には工事書類作成の負担を軽減させるためにシステム化を図り、将来的な従事者人口を予測した技術者配置要件の見直しなどが行われています。
参照元:「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定

 

建設業界のIT化

上記でも触れた通り、建設業界では現在システム化が進んでおり、ITの力で従業員の負担を軽減させる動きが活発になっています。
その中でも今回は現場仕事において注目されているIT化の事例を紹介します。

工事図面や書類の電子化

企業によっては一人一台タブレットを支給される場合も多く、図面や書類の電子化が進んでいます。
また、近年ではBIM(3D作図ソフト)を使った図面による建築確認申請なども行われており、役所への申請においても電子化が進んでいます。

 

現場監視カメラシステム

建設現場の現場管理は時間拘束が長いため、複数の管理者が配置できない現場では管理者の負担が大きくなっていました。しかし「現場監視カメラシステム」の導入で、現場を離れていても現場状況の確認が可能となったのです。
これにより、「現場には終日いなければいけない」という常識に大きな変化がおきました。

 

打ち合わせのオンライン化

従来では現場からクライアントの会社へ移動し打ち合わせを行っていましたが、現在では打ち合わせのオンライン化が進んでいます。
そのため、遠方の現場で参加できなかった管理者も打ち合わせに出席できるようになり、情報共有がしやすくなりました。

 

工事写真のクラウド化

以前は管理者が撮影した工事写真をCD-ROMに保存する企業が多く、CD-ROMの紛失や破損の危険性がありましたが、クラウド管理は長期間の保存がしやすく工事写真の共有もスムーズになるメリットがあるため、最近では工事写真の保存方法をクラウド化する企業が増えています。

 

まとめ

建設業界は深刻な人手不足問題を抱えており、国や企業は様々な取り組みを行っています。重労働や年功序列といった建設業界特有の風潮は少しずつ緩和されているので、業界未経験者の方にとっては追い風になると言えるでしょう。
また、多くの企業では業界未経験者の採用を積極的に行っており、入社後の研修や教育担当者を配置するなど手厚いフォローをしています。

 



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