2021年4月2日
建設業界の中でも、特に施工管理の仕事はブラックであると言われる傾向にあります。理由としては、建設業界における慢性的な人材不足が原因のひとつとなっています。技術力・体力・忍耐力を要する施工管理業務は、工事現場によっては過酷な毎日を過ごさなければならない場合もあるため、新たに参入する人が減少傾向にあるのです。
そこで当記事では、施工管理がブラックといわれる具体的な理由について解説します。同時に、政府の建設業に対する対策や、ホワイトな工事現場へ移行する手法についても解説します。特に長時間労働の改善について、今後採られる具体的な対策が分かるでしょう。
施工管理の主な仕事内容としては、工程管理・品質管理・原価管理・安全管理などがあります。それらの内容は下表の通りです。
管理項目 | 管理内容 |
---|---|
工程管理 | 工事の日程確認、進徳管理 |
品質管理 | 建物の品質が、施主の要望に適っているか、建材が正しく使用されているかなどの管理 |
安全管理 | 職人などの作業員が、事故無く安全に働くことができる環境下にあるかの管理 |
原価管理 | 工事原価が予算範囲内に収まり、利益計上できているかの管理 |
環境管理 | 工事現場周辺の環境や労働環境に悪い影響を与えないよう対策する管理 |
施工管理を担う人材は、年々減少傾向にあります。その大きな要因となっているのが、主に下記5つになります。
工事現場は、通常8時~17時の間で稼働し職人などの作業者が工事を進めます。しかし、施工管理者は通常7時~20時まで、現場によっては24時前後まで働くケースが少なからずあるのが現状です。
理由としては、現場の稼働時間が8時~17時の場合、施工管理者は朝礼が始まる8時までに仕事の準備を完了していなければならないため、朝早く出勤する必要があるからです。
また、17時に工事が終了し作業者が帰宅した後、施工管理者はその日の報告業務や各種書類の作成などの事務作業があるため、それらをこなすために残業が増えてしまうことが多々あります。
担当する工事現場によって、通勤時間は大きく変わります。
自宅から近い工事現場であれば通勤時間が片道30分以内ということもありますが、自宅から遠い工事現場であれば、片道2時間前後という場合もあります。その場合、労働時間以外の通勤時間で1日4時間前後要することになってしまいます。
また、場合によっては工事現場を2箇所以上担当することもあるため、労働時間と移動時間が同程度になるケースも少なくないと言えるでしょう。
施工管理は休日が週に1回程度の場合も少なくありません。その理由は主に以下が挙げられます。
・竣工日(完成日)が決められているため、工程に余裕がない場合が多い
・職人などの作業員の人手不足により、仕事をさばけない
・作業員のペースに合わせざるを得ないため休めない
特に、竣工日が近くなると工期に間に合わせなければならないため、現場によっては休日返上で働かざるを得なくなることも少なからずあるのが現状です。
3Kとは建設現場などでよく用いられる言葉で、「汚い」「きつい」「危険」を指します。
工事現場での作業は埃まみれの中で行うことから作業着が汚れるため、「汚い」というイメージがつきまといます。
特に新築現場の場合、地表面は土などの状態が多くなるため、工事現場に様々な建設資材(鉄筋・鉄骨・木材・コンクリート・塩ビ管など)が搬入・搬出されることで運搬車により土埃が発生します。
また、ビルや工場といった既存建物の工事現場の場合、搬入した建設資材を工事現場内で切断・溶接・加工を行うため、その木屑・鉄屑などが散乱し、材料の粉が舞い上がります。
上記のような環境下にて業務を行うため、作業着などが汚れ「汚い」という印象が強く根付いてしまうのです。
工事現場は直射日光にさらされることが多く、特に夏の場合、35度以上になる猛暑日が連日続くことも多々あります。また、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合、建物自体が熱を保有しますので、非常に蒸し暑くなるため、熱中症で倒れるケースも少なくありません。
一方、冬の場合は0度以下になることもあります。特に、雪が降ると積雪を作業員で雪かきし除雪する作業が増え、状況によっては凍傷になるケースもあります。
このように、工事現場は四季によって左右されることが多く身体への影響もあるため、「きつい」という印象が根付いている背景があります。
工事現場の規模の大小にもよりますが、現場ではトラック・ダンプカー・トレーラー・ミキサー車といった建設資材や廃材の搬入・搬出車両が朝から夜まで出入りします。また、ショベルカーやクレーン車といった建設車両が工事現場内にて稼働し大型車両が行きかっているため、注意を怠ると車両にひかれて大けがや死に直面する危険が潜んでいます。
また、建設資材を吊り下げたクレーンが頭上を旋回しているため落下の危険性があったり、床にある開口部に気付かずに落ちてしまうなど、工事現場には様々な危険が潜んでいます。
工事現場ごとに対策は取られていますが、なかなか事故が無くならないのが現状です。
現在の技能労働者約340万人の中で、60歳以上の層が最も大きな割合を占めています。また、55歳以上の割合が約34%であり、29歳以下の割合は約11%となっています。
今後10年間に技能労働者(熟練者)は約110万人減少する見通しで、若年者(29歳以下)の新規参入者数の増加は見込めない状況と想定されています。
建設業界の現状と、それに対する政府の対応やICT化による労働環境の改善について解説します。
国土交通省は、「建設業における働き方改革」を公表しました。その中で、2007年度と2016年度における建設業・製造業・調査産業計の年間実労働時間・年間出勤日数が公表されています。
年間実労働時間 | 年間出勤日数 | |||
---|---|---|---|---|
2007年度 | 2016年度 | 2007年度 | 2016年度 | |
建設業 | 2,065時間 | 2,056時間 (-9時間) |
256日 | 251日 (-5日) |
製造業 | 1,993時間 | 1,951時間 (-42時間) |
238日 | 234日 (-4日) |
調査産業計 | 1,807時間 | 1,720時間 (-87時間) |
233日 | 222日 (-11日) |
上表より、建設業においては他の産業と比較すると、2016年までの10年間で年間実労働時間・年間出勤日数ともに、ほとんど改善されていないことがわかります。
同様に、「建設業における休日の状況」も公表されています。
4週8休 | 4週6休 | 4週4休 | 4週4休未満 | 4週平均休日 | |
---|---|---|---|---|---|
建設工事全体 | 5.7% | 15.5% | 52.8% | 11.2% | 4.60日 |
建設工事 | 2.8% | 11.9% | 59.8% | 13.7% | 4.35日 |
土木工事 | 5.6% | 19.0% | 49.0% | 8.9% | 4.71日 |
上表より、建設工事全体では、約64%が4週4休以下で業務を行っている状況です。また、4週の平均休日は、4.6日というのが現状です。
平成27年に「働き方改革実現会議」が発足し、長時間労働の是正などについて検討されました。
働き方改革実現会議の構成メンバーは、
・議長:内閣総理大臣
・8名の関係閣僚
(官房長官、働き方改革担当、厚労省、財務省、経済再生担当、文科省、経産省、国交省)
・15名の有識者
により構成されています。
また、平成29年に「働き方改革実行計画」の策定が成されました。その概要は下記の通りです。
具体的には、労働基準法改正により、労働時間の上限が設定されます。
月間残業時間 | 年間残業時間 | |
---|---|---|
原則 | 45時間 | 360時間 |
原則を上回る場合 | 60時間 | 720時間 |
年間720時間の上限を上回る場合でも、
・2~6か月の平均残業時間は、いずれも80時間以内に抑える
・単月での残業時間を100時間未満にする
・原則となる月間45時間残業を上回る月は、年6回までとする
という上限が設けられています。
国土交通省は、「i-Construction」という取組みを進めることにより、建設業界のICT*1化を図っています。その効果として、主に以下の内容が可能となると想定されます。
・施工管理が行ってきた事務処理などをAIにて代行 | → | 労働時間の短縮化 |
・遠隔操作による建設機械の稼働やロボットにおける作業代行 | → | 工事の効率化・安全性向上 |
・AIやロボットによる24時間稼働 | → | 生産性の向上 |
・労働時間の短縮・3K問題の解消 | → | 建設業界以外からの労働者確保 |
・現場作業以外の作業(遠隔操作など)の増加 | → | 齢者や女性にも参入しやすい環境構築の実現 |
*1 ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)
上記において、施工管理がブラックと言われる原因について解説しました。しかし、全ての施工管理がブラックな環境下で働いているわけではありません。中には、ホワイトな環境下のもと施工管理を行える工事現場もあります。
以下ではその特徴について解説します。
地方の工事現場は、大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏)の工事現場と比較すると工程にゆとりのある現場が多くあります。工事内容によっては工事稼働時間を定時内でおさめることができ、事務処理も定時内で完了させることができます。さらに、週休2日を確保できる工事現場も多々あります。
また、出張になるため工事現場近くの宿泊施設に滞在することができ、通勤時間もかなり短縮することができるというメリットがあります。
勤務する建設会社へ労働条件を交渉することも、改善する方法の一つです。特に、工事現場でのキャリアを積み、勤務する会社からも必要とされる人材であれば、労働時間・休日確保・給与所得などの改善の交渉をして然るべきと言えるでしょう。
政府による「働き方改革」の推進により、国土交通省も労働環境の改善を推進しており、それに伴い大手建設会社に対して「働き方改革」の模範となるよう要請しています。大手建設会社はホワイトな工事現場の実現に向けて取り組み始めているため、労働時間・3K問題・休日確保などに対し改善傾向にあります。
特に中小企業においては、工事現場でのキャリアを積まれた施工管理者が勤務する会社に対して労働条件の改善を交渉しても聞き入れてもらえない場合があるため、そのような状況下であれば大手建設会社への転職を検討してみるのも、改善する方法の一つと言えるでしょう。
建設工事の規模が小さい現場の場合、専門工事の種類や職人などの作業員の手配、工事車両の搬入・搬出に伴う手間などが少なくなり、比較的業務にゆとりが生じます。
また、工事現場全体を見渡しやすくなるため、作業員などへの安全面にも配慮しやすくなり、事故の軽減にも繋がります。
施工管理でステップアップするために必要な資格やアピールできる経験について解説します。
施工管理でステップアップするために取得すべき資格として、「施工管理技士」と「建築士」があります。
以下にてそれぞれ解説します。
施工管理技士は、建設業法第27条に基づく国家資格です。資格の性質上、受験資格として実務経験を有していることが必要不可欠の要件となります。
施工管理技士には、土木施工管理技士・建築施工管理技士・電気工事施工管理技士・電気通信工事施工管理技士・管工事施工管理技士・造園施工管理技士・建設機械施工技士の7種類があります。
それぞれの施工管理技士において1級と2級に区分され、施工管理技術検定試験が毎年1回実施されます。
ここでは、7種類の施工管理技士の中で特に人気の高い土木施工管理技士と建築施工管理技士の概要を下表にまとめます。
施工管理技士 | 施工管理技士の内容 |
---|---|
土木施工管理技士 |
|
建築施工管理技士 |
|
〇資格所有の効果〇
資格を取得することにより、公的に一定水準以上の施工技術を有することが認定されます。
建設業法において下記の措置が取られます。
①各施工管理技士は、建設業法に定められる許可の要件として、
・営業所に配置される専任技術者(1級・2級)
・工事現場に配置される主任技術者(1級・2級)
・工事現場に配置される監理技術者(1級のみ)
の資格を満たす者として扱われます。
②経営事項審査において、
・1級施工管理技士:5点
・2級施工管理技士:2点
として評価されます。
建築士は、建築士法に基づく国家資格です。建築士の名称を使用して、建築物に関する設計、工事監理、その他業務を行うことができます。
建築士には、扱える建築物の構造・規模などに応じて、一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類に分かれています。
建築士 | 扱える建築物・業務内容 |
---|---|
一級建築士 | 全ての構造や規模の建築物の設計・工事監理 |
二級建築士 | 比較的小規模な建築物の設計・工事監理 |
木造建築士 | 比較的小規模な木造建築物の設計・工事監理 |
〇資格所有の効果〇
資格を取得することにより、公的に一定水準以上の施工技術を有することが認定されます。
建設業法において下記の措置が取られます。
①各建築士は、建設業法に定められる許可の要件として、
・営業所に配置される専任技術者(一級建築士・二級建築士・木造建築士)
・工事現場に配置される主任技術者(一級建築士・二級建築士・木造建築士)
・工事現場に配置される監理技術者(一級建築士のみ)
の資格を満たす者として扱われます。
②経営事項審査において、
・一級建築士:5点
・二級建築士・木造建築士:2点
として評価されます。
施工管理でステップアップするためにアピールできる経験としては、主に以下の内容が挙げられます。
❏高い応用力を発揮した事例 多種多様な工事現場において、様々な業務上の障壁にぶつかります。それらを一つ一つ解決して、応用力を培ってきた経験はアピールポイントとなるでしょう。 |
❏リーダーシップを発揮した事例 施工管理には、工程管理・品質管理・原価管理・安全管理といった管理能力が求められます。それらを円滑に遂行するためには、多くの作業員に対して指示や命令を出せるリーダーシップが必要になるため、それを培ってきた経験は十分アピールポイントとなります。 |
❏新たな技術を導入した事例 建設現場での業務効率化や生産性向上を図るために、ICTなどの新しい技術を導入して習得する必要があります。新たな技術の導入や習得は、施工管理としてステップアップするためのアピールポイントにすることができるでしょう。 |
以上、施工管理の概要やブラックといわれる理由、建設業界の動向、ホワイトな現場の特徴、ステップアップのための資格・経験について解説しました。
近年では、政府による「働き方改革」の推進により、国土交通省も労働環境の改善を推進しています。
今後は、ICT・AI・IoT技術の進展に伴い、アナログ業務をデジタル業務へ移行することにより、労働時間・休日確保・3K問題などが改善されると想定できるでしょう。