2021年4月2日
「現場責任者」という言葉が使われますが、他にも似たような言葉として、現場所長や現場監督、現場代理人などがあります。「それぞれに明確な違いがあるのか?」と、迷うところです。しかし、法律上に基づく言葉もあれば、通称で使用されている言葉もあります。
実は、現場責任者という言葉は通称で使用されている言葉であり、法律に基づく言葉ではありません。
そこでこの記事では、現場責任者の概要や職長・工事責任者との違い、業務内容について解説します。
最後までご覧頂くことで、現場責任者の使われ方が明確になり、主な業務内容を把握することができるでしょう。
現場責任者とは、企業と工事現場とのパイプ役として業務を遂行し、現場を管理する責任者を指します。工事現場においては、部下や職人などの作業員の統率者・事故防止のリーダーとなり、求められる役割としては工程管理・品質管理・原価管理・安全衛生管理などがあります。
冒頭でも述べたように、現場責任者は通称の呼び名であり正式な役職名ではなく、下表に示す役職全体を総称して使われます。
役職名 | 根拠となる法律 | |
---|---|---|
現場責任者 (右記役職を総称して使用) |
現場所長 | 無(通称) |
監理技術者 | 建設業法 | |
主任技術者 | 建設業法 | |
統括安全衛生責任者 | 労働安全衛生法 | |
元方安全衛生責任者 | 労働安全衛生法 | |
安全衛生責任者 | 労働安全衛生法 | |
現場監督 | 無(通称) |
職長とは、労働安全衛生法では工事現場における作業員の指導監督者を指します。
工事現場は、建設資材などの搬入や廃材などの搬出に伴う運搬車両の出入り、クレーンなどの建設機械の継続的な稼働など事故要因が至る所に潜んでいるため、工事現場全体を監視・監督し、工程通りに品質を確保しながら安全に工事を進捗させる管理者が必要になります。
一定の業種(建設業など)においては、労働安全衛生法第60条により、安全衛生に関わる教育が義務付けされています。(職長教育:12時間)
工事責任者とは、建設工事全体の責任を担う者を指します。
工事現場の規模が大きくなると、全体を漏れなく点検・確認することが困難となります。工事全体をいくつかの工事作業で区分けし、その区分ごとに作業責任者を設置して、点検・確認をさせることが一般的であり、区分ごとの作業責任者から報連相を受けて、工事全体を統括します。
また、工事責任者も根拠となる法律(建設業法や建築基準法など)はなく、通称の呼び名となります。
ただし、職長や工事責任者も、表1と同様に現場責任者とは呼び名が違うだけで、実施する業務は同じとなります。
現場責任者の業務内容には、5大管理と言われる工程管理、品質管理、安全管理、原価管理、環境管理などがあります。
工程管理は、建設工事の決められた工期を守るためにスケジュール管理を行う業務を指します。
建設工事には、「工期」と呼ばれる建造物完成期限が設けられており、発注者との間で工期内に建造物を完成させる契約が交わされます。各工事の工期を調整しながら全体の工期を守り、工事を完成させる必要があるのです。
建設工事におけるスケジュール管理は、工程管理表を作成して行われます。工程管理表には、「全体工程表」や「月間工程表」、「週間工程表」などがあり、一定期間ごとに作成されます。
また、工事業者(下請業者)を管理する「横線式工程表※1」や作業を管理する「ネットワーク工程表※2」などもあります。
※1:横線式工程表…差列に工事業者を縦に列記し、工事業者欄の右横側に日付ごとの工程が記載された表。工事業者がいつからいつまで担当工事を担うのかを一目で把握することができる。
※2:ネットワーク工程表…各工事の作業のつながりを記載した表(丸印と矢印で記載)
品質管理は、建設対象物が設計図書や仕様書通りに造られているかの管理を行う業務を指します。
具体的には、
・設計図書に記載されている寸法通りに建設物が造られているか
・仕様書に記載されている強度や機能・材質通りに建設物が造られているか
などを点検・確認します。
点検・確認する手段として、評価対象ごとに決められた試験方法や点検方法などで確認を行い、品質を確保します。
また、品質保持を証明するために、施工写真を撮影して記録に残すなどの施工記録の作成なども行います。
安全管理は、建設現場において、安全な環境で工事作業を行えるように整備し、事故を起こさないように管理する業務を指します。
その対策として、
・KYK:危険予知活動
・5S運動:整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)
・ヒヤリハット運動
などを進めます。
原価管理は、施工計画などに基づき算出した「実行予算」と、建設現場での実際の工事において発生する「原価」を管理して、利益を計上できるように管理を行う業務を指します。
実行予算よりも原価が増え、利益を計上することができなくなってしまうことなどを防ぐため、現場責任者は施工計画の見直しや下請工事業者の変更などを行い、実行予算と原価を調整しながら利益を計上できるように管理を行います。
一般的な建設工事における原価構成と割合の目安を下表にまとめます。
費用項目 | 割合 | 費用内容 | |
---|---|---|---|
直接業務費 | 直接労働費 | 50% | 職人などの作業員に対する賃金やその他の現場運営費 |
外注費 | 15% | 外部の専門工事会社に工事を依頼する際に発生する外注費 | |
建材費 | 10% | 建設資材などの材料費 | |
一般管理費・販売費 | 15% | 一般管理費は本社経費、販売費は営業経費 | |
粗利益 | 10% | 税引前利益 |
工事現場周辺の環境や労働環境に悪い影響を与えないよう対策する業務を指します。
工事現場によっては、自然や地域に多大な被害を与える可能性があるため、施工管理者は工事によって起こる問題を把握して、周辺の環境に悪影響を与えない措置を取らなければなりません。
また、働きやすい環境づくりや円滑なコミュニケーションの構築も施工管理の重要な業務のひとつになります。
主に、以下に関する対策を行います。
・自然環境:空気や水、土壌、地盤などに悪い影響を与えないように考慮すること
・周辺環境:騒音や振動、粉塵の被害が現場の周辺住民に起きないように対策すること
・職場環境:工事現場で働く人の環境を守り、働きやすい環境を整えること
以上、現場責任者の概要や職長・工事責任者の違い、業務内容について解説しました。
用いられる言葉は表1のようにさまざまですが、全てを総称して「現場責任者」となります。現場責任者は、建造物完成に向けて、工事現場での全責任を担う立場にあります。5大管理といわれる工程管理・品質管理・安全管理・原価管理・環境管理をこなし、発注者の要望に適う建造物を完成させるために、任務を全うするのです。