2021年10月6日
施工管理技士の働き方には、建設会社の正社員として働く以外に、派遣会社から建設会社に派遣されて働く方法もあります。しかし、給与面や将来性、安定性に不安を感じる方も少なからずいらっしゃるかと思われます。
そこで今回は、労働者派遣法に則った派遣業務内容や派遣の給与、メリットについて解説します。
建設業界における慢性的な人材不足の中、派遣による施工管理技士の業務に対して魅力を感じることができますので、ぜひ最後までご覧ください。
施工管理技士は、派遣会社に登録し要望に近い建設現場などへ赴き、派遣として業務をこなす働き方もあります。
しかし、建設業界では労働者派遣法により、建設業に関わる業務において労働者派遣を行うことが禁止されている業務があります。
※1:「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」 e-GOV法令検索
派遣禁止の理由は、主に以下の通りです。
・建設業務の場合、需要自体が不安定
・建設業務は、重層的な下請け関係となっており、雇用関係が曖昧
施工管理技士が把握するべき派遣禁止業務の主な内容は、下記の通りです。
・建設現場での資材の運搬や組立て(施工計画作成や工程管理・品質管理は含まない)
・建設現場での掘削・埋立て・資材の運搬・組立て(施工計画作成や工程管理・品質管理は含まない)
・コンクリートの合成・建材の加工
・建設現場における準備作業全般
・建設現場内の資材や機材の配送(工事現場外の工場や倉庫などからの資材や機材の搬入は含まない)
・壁や天井、床の塗装や舗装
・建具類などの固定や撤去
・外壁への電飾版や看板などの設置や撤去
・建設現場での配電や配管工事、機器の設置
・建設現場入口の開閉や車両出入りの管理、誘導
・建設現場の整理や清掃、内装仕上げ
・大型仮設テントや仮設舞台の設置(簡易テント設営やパーティションなどの設置は含まない)
・仮設住宅(プレハブ住宅など)の組立て
・建造物や家屋の解体
・専任の主任後術者・監理技術者
(請負業者が直接雇用する必要があるため、派遣社員は主任技術者になることは建設業法で不可。専任の主任技術者や監理技術者は、労働者派遣の対象とならない)
建設現場において、派遣禁止とならない業務は下記の通りです。
・現場事務所での事務員
・現場事務所でのCADオペレーター
・施工管理業務(施工管理は派遣禁止業務である建設業法に該当しないため労働者派遣の対象)
労働者派遣法に違反した場合の主な罰則を下表にまとめます。
派遣禁止に違反した場合 | 届け出などを怠った場合 | |
---|---|---|
罰則 |
|
|
派遣された労働者を禁止業務に従事させた場合、以下に対して労働者派遣の停止命令
|
施工管理技士における派遣という働き方に対して
「正社員と比較して、給料が低いのではないか?」
「仕事が無くなり、不安定なのではないか?」
「正社員と比較して、福利厚生面での条件が悪いのでは?」
などの印象を抱く方が、少なくないと思われます。しかし、施工管理技士に関しては例外となります。
建設業界において好景気が続いていることもあり、施工管理技士は、慢性的な人材不足の状態です。したがって、仕事が無くなる心配は不要ですし、給料が安いという心配も不要です。
なお、本人のスキルや実績、資格保有によります。
施工管理技士が派遣でも高収入の理由は、建設業界における慢性的な人材不足・高齢化によります。
国土交通省が公表した「建設産業の現状と課題」によると、建設業就業者数の推移は下表の通りです。
平成9年 | 平成22年 | 平成27年 | 平成9年 ~平成27年の増減 |
|
---|---|---|---|---|
建設業就業者 | 685万人 | 498万人 | 500万人 | 185万人減少 |
技術者 | 41万人 | 31万人 | 32万人 | 9万人減少 |
技能労働者 | 455万人 | 331万人 | 331万人 | 124万人減少 |
平成9年から平成27年までに、以下のようになっていることがわかります。
・建設業就業者:185万人減少
・技術者:9万人減少
・技能労働者:124万人減少
したがって、施工管理技士はより希少価値が増しますので、派遣とはいえ高収入にならざるを得ないことがわかります。
建設業就業者(技能労働者)の高齢化も進んでいます。国土交通省が公表した「建設産業の現状と課題」によると、年齢ごとの技能労働者数は下図の通りです。
60歳以上の高齢技能労働者数は、以下の通りです。
・65歳以上:42.4万人
・60歳~64歳:35.7万人
・合計(60歳以上):78.1万人
60歳以上の技能労働者数は78.1万人いますが、2025年には引退します。この数値は、技能労働者約330万人の中では23.7%を占めます。
一方、29歳以下の若手技能労働者数は、以下の通りです。
・25歳~29歳:19.2万人
・20歳~29歳:13.9万人
・15歳~19歳: 2.6万人
・合計(15歳~29歳):35.7万人
29歳以下の技能労働者数は35.7万人いますが、この数値は、技能労働者約330万人の中では10.8%にしか過ぎません。
したがって、若年層にいくほど技能労働者数は減少しますので、今後益々高齢化が進み、建設業界全体の技能労働者数が減少することは顕著と言えますが、施工管理技士はより希少価値が増しますので、労働単価は上昇する見込みとなります。したがって、派遣とはいえ高収入にならざるを得ないことがわかります。
2025年には多数の高齢技能労働者が引退しますので、施工管理技士の業務が減少するとは考えにくい状況です。その様な状況下で、実際に60歳以上の施工管理技士が多数現役として働いています。
国土交通省が公表した「建設産業の現状と課題」によると、建設業界における中長期的な担い手の確保の試算は下図の通りです。
※2:「建設投資、許可業者数及び就業者数の推移」 国土交通省
2025年の技能労働者数は、コーホート分析※によると約286万人と試算しています。一方、建設市場規模の見通しを踏まえ、2025年に必要な技能労働者数は333万人~379万人と試算しています。
よって、コーホート分析での試算と2025年に必要な技能労働者数の試算との間には、47万人~93万人の差が生じていることが分かります。
※コーホート分析:対象者をコーホートにしたがってグループ分けし、それぞれの意識や行動・消費の動向を分析すること。コーホートは、ある一定の期間内に出生した人の集団を指す。
「東京オリンピックが閉幕すれば、建設事業が減少するのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、現状は逆で、むしろ増加傾向にあります。
例えば、
・東京都心開発 | |
・日本橋:首都高速道路の地下化や日本橋再開発 | |
・常盤橋:三菱地所による日本最高ビル建設「TOKYO TORCH」 | |
・築地市場再開発 | |
・リニア中央新幹線関連工事 | |
・2025年大阪国際博覧会関連工事:地下鉄延伸、梅田再開発 | |
・度重なる水害に対する関連工事:ダム・河川堤防・海岸防潮堤・河川に架かる橋梁の嵩上げなど | |
・インフラの老朽化対策工事:橋梁・トンネル・水門・擁壁・上下水道など | |
・住宅、オフィス、商業施設、教育施設などの耐震工事 |
などです。
中にはビッグプロジェクトも多数あり、建設業の好景気は当分継続するものと思われます。したがって、施工管理技士は、派遣とはいえ将来性がある職種と言えるのです。
施工管理技士の派遣による業務のメリットとして、主に以下などが挙げられます。
・大手企業・非公開求人の業務がある
・仕事を選べる
・経験が積める
通常、転職活動をする場合、以下の方法が基本となります。
・ハローワークでの仕事探し
・求人雑誌や求人サイトでの仕事探し
こちらは多数の求人情報を閲覧できますので、有効な転職活動ができる方法と言えるでしょう。
一方、派遣のメリットは主に以下の通りです。
・大手企業からの求人
・非公開求人
上記では大手ゼネコンに就職しなくても、派遣により業務を行うことができます。
非公開求人は、掘り出し物求人ともいうべき求人スタイルです。人材を要望している建設会社が、「当社に合う人材を欲しい」「他社に採用情報を知られたくない」などの理由により、非公開にて派遣会社に寄せられる求人情報です。建設会社の要望に合う人材であれば、紹介してくれる可能性があります。
自身が希望すれば、様々な建設現場を経験することができます。
例えば、主に以下が挙げられます。
・マンションの建設現場にて仕事をする機会が多くあったが、次はオフィスビルや商業施設などの建設現場にて仕事をしたい
・道路のメンテナンス工事に携わっていたが、新設工事に携わりたい
建設会社の正社員だと、自身の希望条件が通りにくい面がありますが、派遣の場合は希望条件に近い建設現場に赴く配慮がなされますので、多くの経験を積むことができます。ただし、自身のスキルや技術の向上に努力を要することは必要となります。
派遣会社に入社すると、仕事に対する自身の希望条件を伝えることができます。
例えば、主に以下が挙げられます。
「休日出勤は、極力避けたい」
「長時間残業は、避けたい」
「長時間残業でも良いので、できるだけ稼ぎたい」
「転勤は、極力避けたい」
派遣会社側も可能な限り、自身の希望条件に沿った派遣先を紹介してくれます。ただし、希望条件が多すぎると、派遣先企業が無くなる可能性がありますので、ある程度の希望条件の譲歩も必要になります。
以上、労働者派遣法に則った施工管理技士の派遣や派遣の給与、メリットについて解説しました。
施工管理技士として正社員として働くか、派遣として働くか、それぞれメリット・デメリットがありますので、できる限り自身の希望条件を通して働きたいという方は、派遣での就業をオススメします。