2021年10月19日
建設工事現場において、工事関係者は工程表に基づき工事を行います。そのため、工程表の作成者は工事全体を把握する必要があります。
工程管理で重要なことは工期内に工事を完成することであり、無駄を省く必要がありますが、よく利用される工程表の一つが、「ネットワーク工程表」です。
そこで今回は、ネットワーク工程表の概要やメリット、作成ルール、書き方について解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
「ネットワーク工程表」は、建設工事現場において使用されている工程表の一つであり、主に建築工事・土木工事・管工事・電気工事など、建設工事全般で利用されています。
「ネットワーク工程表」には以下の特徴があり、施工管理者においては必須のスキルとなります。
・工事全体の流れの明確化
・工事が問題なく順調に進行した場合の施工期間を算出
・多種多様な工事が複雑に絡み、並行して進捗する中、最も時間を要する工事ルートの明確化
・各工事の関連性(工事開始予定日・工事完了予定日)を明確化
ネットワーク工程表を作成するメリットには、主に以下が挙げられます。
・工事の順番の可視化
・各工事に必要な日数の可視化
・工事全体のスケジュールの可視化
ネットワーク工程表は、各工事に要する日数を可視化することができます。
大きなプロジェクトになればなるほど工程が複雑になり、同時並行させる工事ルートが複数生じ、各工事ルートに要する日数も異なってきます。その場合、最も工事日数を要する工事ルートを重点的に管理することにより、その工事ルートの工事期間を短縮化することができ、他の工事ルートの待ち時間の削減にも繋がるため、工事全体の工期の短縮化が図れるのです。
また、工事日数が明確になることで近隣説明の際に根拠を提示しながら説明することができるという点も、ネットワーク工程表のメリットであると言えるでしょう。
ネットワーク工程表は工事全体の流れを可視化できるため、工事の進捗状況に応じた対策を取ることができます。
各工事工程や順番を一目で確認できると品質を保持し易くなり、工期の短縮にも繋がります。工程管理による工期の短縮化は原価管理にも貢献し、経費を削減して利益率を向上させます。例えば、建設機械のレンタル料や作業者の日当の削減などが挙げられます。
また、天候の悪化や事故発生などのトラブルが生じた場合も、ネットワーク工程表において見直しなどの調整が行いやすく、工事現場の状況に合わせて作業順序の入れ替えや短縮できる工事などのプロセスを再構築できます。
ネットワーク工程表を作成するにあたり、使用する専門用語や作成ルールを把握する必要があります。
ネットワーク工程表の作成に必要な専門用語を下表にまとめます。
専門用語 | 専門用語の意味 |
---|---|
イベント(結合点) |
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アクティビティー(作業) |
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ダミー |
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最早開始時刻※ |
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最早終了時刻※ |
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最遅開始時刻※ |
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最遅終了時刻※ |
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クリティカルパス |
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フロート(スラック) |
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トータルフロート |
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フリーフロート |
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※時刻:工事現場で使用するネットワーク工程表では日数を指します。
ネットワーク工程表を作成する基本ルールは、下記の通りです。
①アクティビティーの上に作業番号(例えば、A、B、C、・・・)を記入
②アクティビティーの下に作業日数(例えば、3日、4日、7日・・・)を記入
③アクティビティーは、作業の進行方向(例えば、左かわ右、上から下、下から上)へ向ける
④イベント番号は、作業の進行に向かうほど大きな正の整数を記入
⑤アクティビティーの作業が完了しないと、次の作業にかかれない
⑥同一のイベント間に、2つ以上のアクティビティーを記入することはできない
次に、ネットワーク工程表の書き方について解説します。
建設工事において、必要な工事内容を拾い出します。建設会社が複数ある場合、専門工事ごとに細かく分類された工事内容を拾い出すと作業が把握しやすくなり、精度も上がります。
次に、拾い出した各工事において工事進捗上の依存関係を考慮し、前後の関連付けを行います。
(例)
・作業Aと作業Bは、同時に開始
・作業Aが完了 → 作業Dを開始
・作業Bが完了 → 作業Cを開始
・作業Cが完了 → 作業Eと作業Fを同時に開始
それぞれの流れをアクティビティー(矢印)で結び、結合部にはイベント番号を記入します。
イベントとイベントの間のアクティビティーは1本だけです。また、イベント番号は作業の進行に合わせて数字を大きくし、同じ番号は記入できません。
また、同時並行で工事を進捗させる場合、前後の依存関係が発生する工事についてはイベント間をダミー(点線矢印)で繋ぎます。
(例)
・作業Cが完了 → 作業Eを開始
・作業Aが完了 → 作業Eを開始
・作業Eは、作業Cが完了しても、作業Aが完了しなければ、開始できない
・作業A完了後のイベントと作業C完了後のイベントとをダミーで繋ぐ
ネットワーク工程表上の各工事の関連性を考慮しながら、工期を守れる範囲内で各工事における標準所要日数を算出します。算出した標準所要日数は、アクティビティーの下に記入します。
なお、複数の工事が同時並行で進捗し、それらの工事が完了してから次の工事を開始する場合は、各工事の標準所要日数に誤差が発生する可能性があります。
また、同時並行させた工事ルートごとの所要日数が異なる場合は、所要日数の大きい方を採用します。それぞれのルートにおける最長所要日数を選択することにより、建設工事全体の総所要日数を割り出すことができます。
フォローアップは、工事の遅延に対して計画の修正を行う作業です。工事の進捗状況を把握し、トラブルなどが発生した場合に工程に与える影響を考慮して対策を適切に取ります。
例えば、天候の悪化や事故発生などのトラブルが生じて、工事の進捗が遅延する場合があります。当初に設計したネットワーク工程表から変更が生じた場合、実際の進捗状況と照らし合わせてアクティビティーや工事所要日数を修正してフォローアップする必要があります。
フォローアップでは、主に以下などを検討します。
・アクティビティーごとに工事所要日数の見直し(短縮化)
・アクティビティーの入れ替え
・新たなアクティビティーの設定
フォローアップ後のクリティカルパスを早い段階で確認できれば、適切な人員配置や機材投入など、工事の遅延を最小限に抑えるための対策を図ることができます。
そのため、トラブルが生じた場合、工事の遅延に影響する事態であれば速やかにフォローアップを行う必要があります。
工程管理を行う上で、アクティビティーごとに合理的な計画が必要になります。工事内容や工事所要日数、工事原価などを考慮し、適切な人員配置・機材配置の計画を立てます。
・技術者や職人などの作業者の人数
・建材・資材や機材などの数量
などを平均的に配置することにより、人員不足や建材・資材不足の防止に繋がるだけでなく、原価管理・品質管理・安全管理上においても有利にはたらきます。
ここで利用される方法は以下の通りです。
・山積み・山崩し
・エキストラコスト
山積み・山崩しは、工事に必要な作業者数を合計して柱状にした山積み図を作成し、凹凸を平均化する山崩しを行います。作業者数以外にも建材・資材や機材でも利用できます。
エキストラコストは、工期の短縮に利用される方法です。
最後に、2級建築施工管理技士の資格を取得するメリットを2つ紹介します。キャリアアップや転職を検討されている方は、ぜひ受験を検討してみるとよいでしょう。
「主任技術者」とは、元請・下請・請負金額に関係なく、請け負った全ての工事現場に配置しなければならない技術者です。
しかし、主任技術者になるためには国家資格または指定以上の経験年数が必要になります。とくに、若手施工管理者など実務経験が少ない方が主任技術者になるには「施工管理技士」の資格は必要不可欠と言えるでしょう。
以上、ネットワーク工程表の概要やメリット、作成ルール、書き方について解説しました。
ネットワーク工程表は、複数の専門工事を進捗させる場合、建設工事全体を俯瞰するのに役立ちます。工事作業の依存関係などを図式化し、工事の進捗状況を把握しながらフォローアップして工期を守るだけでなく、人員配置や建材・資材配置、機材配置を事前に確認することもできます。
建設工事現場において、施工管理者にとってはネットワーク工程表の作成スキルは必須と言えるでしょう。専門用語や作成ルールなどを習得してネットワーク工程表を作成し、施工管理業務に役立てることをオススメします。