構造設計とは?仕事内容や資格を解説
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構造設計とは?仕事内容や資格を解説

2021年10月19日

建築設計には「意匠設計」、「構造設計」、「設備設計」がありますが、建物の耐力や安全性を担うのが構造設計となります。
特に日本の国土は、台風の強風による耐風力や洪水、高潮、津波による耐水力、頻発する地震による耐震力などを考慮しなければならず、日本は世界屈指の構造設計の困難な国の一つでもあります。
そこで今回は、構造設計の概要や仕事内容、構造設計者と建築設計者との違い、構造設計の資格について解説します。
構造設計の魅力について知ることができますので、ぜひ最後までご覧ください。

 


 

構造設計とは

構造設計は、建物の土台と骨組みを様々な荷重に耐えられるように安全性能を満たしながら、経済的に設計することです。建築物の基礎や柱、梁、床、屋根などの耐力・形状・配置を、建築基準法に適合するように決定します。
建築設計には、構造設計以外にも、意匠設計や設備設計があります。
意匠設計は、建築主からの要望をヒアリングし、建築デザインや間取りを計画します。敷地条件や周辺環境から建物配置を決め、外観・内観・間取りなどのデザインを行う仕事です。
設備設計は、上下水道や空調、音響などの環境を計画します。上下水道設備や空調設備、衛生設備、電気設備などの設計を行い、機械の配置や配管の位置などを、意匠設計・構造設計と調整を図りながら仕事を進めます。

 

構造設計の仕事内容

建築の構造設計の担当者は、「構造設計者」「構造デザイナー」「構造技術者」などと呼ばれています。
構造設計の仕事内容としては、主に以下の通りです。
・建物の基礎や土台、柱、梁、床、屋根などの構造設計を行い、構造設計図の作成
・設計監理や耐震設計、補強設計など、建物の構造や安全性能に関する業務
・意匠設計から挙がるデザインや間取りを活かし、構造的に無理が生じればフィードバックし調整
・設備設計から挙がる様々な設備・器具などの荷重や上下水道管やダクトなどの配管を配慮

 

構造設計の仕事内容の変化

これまでは、意匠設計→構造設計→設備設計という一方通行の業務の流れでしたが、現在では構造技術の著しい発展・高度化により、曲線での形状などより複雑なデザインが可能となりました。そのため、意匠設計の初期段階から構造設計者も加わり、意匠と構造が両立する設計を試みています。
また、BIM(Building Information Management)の発展・普及により、設備設計の担当者も、意匠設計・構造設計の段階からオンライン上にて設計内容を閲覧することが可能となりました。
したがって、相互にフィードバックしながら、業務を進めることが可能な設計環境になりつつあるのです。

 

大地震による構造設計(耐震基準)の強化

構造設計の中でも、地震に対する耐震力の設計比重は大きいと言えるでしょう。
大地震の発生による甚大な建物被害が発生する度に耐震基準が強化され、構造設計も強化されました。「旧耐震基準」から「新耐震基準」へと移行し、現在では「2000年基準」「新・新耐震基準」といわれています。

 

【旧耐震基準】

旧耐震基準は、1950年から施行され、1981年5月まで約30年に亘り運用された耐震基準です。
その基準は、10年に1度発生すると想定される中規模の地震動(震度5強程度)に対して、家屋が倒壊・崩壊しないというものでした。
したがって、震度5強よりも大きくなる大規模の地震動(震度6強~7程度)を想定したものではなく、また当時において、大規模の地震動に対する耐震技術の開発も追いついていなかったと考えられます。

 

【新耐震基準】

新耐震基準は、1981年6月から施行されました。そこで規定された基準は以下の通りです。
・中規模の地震動(震度5強程度)で、家屋がほとんど損傷しない
・大規模の地震動(震度6強~7程度)で、家屋が倒壊・崩壊しない、ただし多少の損傷は許容

この基準は、現在においても引き継がれています。

 

【2000年基準】

1995年に発生した阪神淡路大震災における建物被害の調査結果を踏まえ、2000年6月に建築基準法が改正され、新耐震基準から主に下記の内容が強化されました。
・地盤調査における規定を充実
・地盤調査に基づく地耐力に応じた基礎構造の選択
・耐震壁をバランス良く配置
・柱と土台・柱と筋かいなどの結合部において、筋かい金物や接合金物などを使用する規定

 

構造設計の仕事内容に向いている人

構造設計者は、意匠設計の担当者ほどに人前に出る機会はありませんが、責任感があり、陰日向なく、真面目に仕事をやり遂げることのできる人が構造設計に向いていると言えるでしょう。

 

構造設計者と建築設計士の違い

構造設計者は、建築設計士の一部になります。建築設計士の中には、意匠設計者や構造設計者、設備設計者がおり、この3者の設計により、デザイン良く安全で機能的な建物の設計が完成します。
構造設計者は、建物の基礎や土台、柱、梁、床、屋根などの構造設計を行い、構造設計図の作成をするにあたり、構造計算を行います。その計算結果により、柱や梁などの寸法や鉄筋量などを決定し、意匠設計者に伝達します。
建築設計会社の中でも大企業になると、独自で開発した自社ソフトを使用する会社もありますが、一方で中小企業の場合には、汎用ソフトを購入して構造計算を行う会社が多くなります。
構造計算は、建築構造力学に基づいた計算を行い、経済的な安全性を追求する工程となります。したがって、物理学や数学などを応用し、ソフトにて解析計算を繰り返しながら、シミュレーションを行う作業となります。

 

構造設計の仕事に使える資格

構造設計の仕事に使える資格として、一級建築士や構造設計一級建築士、JSCA建築構造士があります。
それぞれの概要や受験資格、難易度について解説します。

一級建築士

建築設計を行うためには、建築士の資格が必要です。建築士には、一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類があり、一級建築士は、全ての構造・規模の建築物の設計を行うことができます。

建築士の種類別の業務範囲

一級建築士、二級建築士、木造建築士の業務範囲を下表にまとめます。

延床面積S(㎡) 木造 木造以外 全ての構造
高さ≦13mかつ軒高≦9m 高さ≦13mかつ軒高≦9m 高さ>13m又は軒高>9m
階数1 階数2 階数3以上 階数2以下 階数3以上
S≦30 A C A
30<S≦100
100<S≦300 B
300<S≦500 D
500<S≦1,000 一般
特定
1,000<S 一般 C
特定

※1:「建築士の種類と業務範囲」公益財団法人建築技術教育普及センター

 
A:誰でもできる
B:一級建築士、二級建築士、木造建築士でなければできない
C:一級建築士、二級建築士でなければできない
D:一級建築士でなければできない

※:特定とは、学校、病院、劇場、映画館、観覧場、公会堂、オーディトリアムを有する集会場、百貨店をいう。

 

受験資格

一級建築士試験の受験資格は、建築士法第14条において、建築に関する学歴もしくは資格等により規定されています。

建築に関する学歴もしくは資格等
大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等において指定科目を修めて卒業した者
二級建築士
建築設備士
その他国土交通大臣が特に認める者(外国大学を卒業した者等)

※2:「受験資格」公益財団法人建築技術教育普及センター

 

難易度

一級建築士の直近3年間の試験結果を下表にまとめます。

平成30年 令和元年 令和2年
実受験者数 合格率 実受験者数 合格率 実受験者数 合格率
合格者数 合格者数 合格者数
学科 25,878人 18.3% 25,132人 22.8% 30,409人 20.7%
4,272人 5,729人 6,295人
製図 9,251人 41.1% 10,151人 35.2% 11,035人 34.4%
3,827人 3,827人 3,796人
総合合格率 12.5% 12.0% 10.6%

※3:「直近5年間の試験結果」公益財団法人建築技術教育普及センター

 
設計製図の試験課題は、以下の通りです。
・平成30年:健康づくりのためのスポーツ施設
・令和元年:美術館の分館
・令和2年:高齢者介護施設

受験資格がある上に合格率も10%~12%となりますので、難易度は高いと言えるでしょう。

 

構造設計一級建築士

平成20年11月28日に、建築士法が改正され、「一定規模以上の建築物」の構造設計は、以下が義務付けされました。
・構造設計一級建築士が自ら設計を行う
・構造設計一級建築士に構造関係規定への適合性の確認(法適合確認)を受ける

「一定規模以上の建築物」は、以下の通りです。
・木造の建築物で、高さが13mまたは軒の高さが9mを超えるもの
・鉄骨造の建築物で、地階を除く階数が4以上のもの
・鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物で、高さが20mを超えるもの
・その他政令で定めるもの

受験資格

一級建築士として「5年以上の構造設計の業務」に従事した後、国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関が行う講習の課程を修了することが必要です。
「5年以上の構造設計の業務」として認められるものは、下記の通りです。
・構造設計の業務
・確認審査等の業務(建築物の構造に関するものに限る)及び、その補助業務
・構造計算適合性判定及び、その補助業務
・工事監理の業務(建築物の構造に関するものに限る)

なお、講習は講義2日間と修了考査(試験)1日になります。

 

難易度

構造設計一級建築士の直近3年間の試験結果を下表にまとめます。

平成30年 令和元年 令和2年
実受験者数 合格率 実受験者数 合格率 実受験者数 合格率
合格者数 合格者数 合格者数
合計 831人 40.4% 771人 28.1% 790人 36.1%
336人 217人 285人

※4:「過去5年間の構造設計一級建築士講習データ」公益財団法人建築技術教育普及センター

 
一級建築士を取得して5年間の構造設計の実務経験を積み、合格率が28%~40%となりますので、非常に難関な資格であることがわかります。

 

JSCA建築構造士

JSCA建築構造士は、豊富な専門知識と経験に基づき優れた技術力により、構造計画立案から構造設計図書までを統括し、構造に関する工事監理も行います。
構造設計一級建築士の中でも、特に建築構造全般について的確な判断を下すことができる技術者になります。

※5:「JSCA建築構造士とは」一般社団法人 日本建築構造技術者協会

受験資格

受験資格は、下記の要件のいずれにも該当していることが必要です。
・構造設計一級建築士を取得していること
・2年以上の責任ある立場での構造設計業務の実務経験があること
・構造監理業務の実務経験があること
・JSCA会員の場合は、会費を受験申込前に全能していること

※6:「2021 年度 JSCA 建築構造士資格認定試験実施要項」一般社団法人 日本建築構造技術者協会

 

難易度

2017年度 2018年度 2019年度
実受験者数 合格率 実受験者数 合格率 実受験者数 合格率
合格者数 合格者数 合格者数
合計 831人 40.4% 771人 28.1% 790人 36.1%
336人 217人 285人

 
構造設計一級建築士を取得して2年間の責任者としての構造設計業務の実務経験を有した上で、合格率が40%前後となりますので、超難関資格であることがわかります。

 

まとめ

以上、構造設計の概要や仕事内容、構造設計者と建築設計者との違い、構造設計の資格について解説しました。
構造設計は、特に阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震など、震度7クラスの大地震が発生する度に注目を浴びる業務であり、その重要性は、大地震が頻発する現代にとって高まるばかりです。
構造設計の資格については、一級建築士 → 構造設計一級建築士 → JSCA建築構造士の順に難易度は高くなります。構造設計のスペシャリストを目指す方は、これらの資格にチャレンジされることをオススメします。

 

 


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