2021年11月12日
2010年から2019年まで建設投資額は右肩上がりとなり、建設業界は活況を呈していましたが、2020年はコロナ禍による影響により減少に転じました。
この記事では、建設業界の概要や現状、課題、動向、IT化について解説します。
東京オリンピックは閉幕しましたが、ビッグプロジェクトは目白押しとなっています。コロナ禍が収束し人流が回復すれば、建設投資額は再び上昇に転じる可能性が高くなることがわかります。
建設業界は、人々が生活するために必要なものや便利な暮らしを可能とするものを造る事業を担っています。いわゆる社会インフラといわれる建設物です。
その具体的な対象としては主に以下の通りです。
・毎日の生活に欠かせない住宅や店舗・学校・オフィス・病院などの建物(建築)
・電気・ガス・水道設備といった生活に関連する水道光熱施設(土木・建築)
・人々の移動に欠かせない道路や鉄道・飛行場・港湾といった交通施設(土木・建築)
・交通施設などに関連する橋梁やトンネル・擁壁といった土木構造物(土木)
・防災に関連する堤防やダム・水門などの水害防御施設(土木)
建設業界には、ゼネコンや住宅メーカー、不動産など様々な業種があります。それぞれの業種における主な企業を下表にまとめます。
部門別 | 業種別 | 主な企業 |
---|---|---|
開発・計画・施工管理 | ゼネコン | 大林組、鹿島建設、大成建設、清水建設、竹中工務店 など |
ハウスメーカー | 大和ハウス工業、積水ハウス、飯田グループホールディングス、住友林業、旭化成ホームズ、セキスイハイム など | |
不動産 | 三井不動産、三菱地所、住友不動産、東急不動産ホールディングス、野村不動産ホールディングス など | |
設計 | NTTファシリティーズ、日建設計、三菱地所設計、日本設計 など | |
専門工事 | 土木工事 | 五洋建設、東亜建設工業、NIPPO、熊谷組、不動建設 など |
プラント | 日揮、千代田化工建設、東洋エンジニアリング など | |
管工事 | 高砂熱学工業、新菱冷熱工業 など | |
内装工事 | 乃村工藝社、丹青社 など | |
電気工事 | きんでん、関電工、九電工 など | |
機械・仮設資材 | 建設機械 | コマツ、日立建機、コベルコ機械 など |
仮設資材 | アルインコ、キョーワ など |
建設業を支える主な職種には、施工管理以外に設計、営業、技術、事務管理、安全管理などがあります。
以下ではそれぞれの職種について解説していきます。
工事現場において、工程管理・品質管理・原価管理・安全管理・環境管理などを中心として現場の管理を行う職種です。
業務内容は主に以下の通りで、多岐にわたります。
・工事現場に出入りする多種多様な専門工事業者の作業進捗状況
・基礎工事・躯体工事などの各工事の工程管理
・工事現場への建材・資材の手配や搬入・搬出の管理
・実行予算に対する現場経費の管理
・施主や建設コンサルタント・建築設計事務所などとの打合せ
・工事現場における労働災害の防止や安全に工事が進捗できるために、現場環境の改善・管理
また、施工管理には主に以下の7種類があります。
・建築工事の施工管理:住宅・オフィス・商業施設などの施工管理
・土木工事の施工管理:道路工事・河川工事・海岸工事などの施工管理
・電気工事の施工管理:電気配線工事などの施工管理
・配管工事の施工管理:水道管工事・空調設備の配管などの施工管理
・造園工事の施工管理:庭園・公園・緑化施設などの施工管理
・電気通信工事の施工管理:電気通信設備工事などの施工管理
・建設機械の施工管理:ショベルカー・クレーンなどの大型建設機械の施工管理
施主の要望を様々な技術とアイデアにより、図面に反映させていく業務が設計の業務内容となります。
設計の種類としては、意匠設計・構造設計・設備設計に分類されます。
また、設計の職種としては以下の2種類があります。
・設計士:企画・アイデアをまとめる人(建築の場合:建築士、土木の場合:建設コンサルタント)
・CADオペレーター:設計士の企画・アイデアを図面化する人
建設業界における営業は、官公庁や民間企業といった施主の多様なニーズに応えるべく、自社技術を提案・説明しながら工事の受注に繋げる業務になります。
自社の各部門とのコミュニケーションを図り、施主のニーズを反映させ、建築物や土木構造物などの完成を工事現場外にて後方支援する役割も担います。
技術部門は、建設業の土台を支える部門であり、職人と技術開発で構成されます。
事務管理は、会社運営に伴う経理や人事・総務・法務など、工事以外の事務的業務を担います。
設計や営業、その他の部門全てと連係を取る必要があり、事務管理は本社以外に支社・工事現場にも必要な職種となります。
安全管理は、安全・安心・快適に工事を行えるように職場環境の改善や管理を行う業務を担います。
具体的には以下の通りです。
・工事現場における労働災害の防止
・安全に対する社員教育
・下請け会社・協力会社・職人との安全面での連携
2001年以降の建設業界における建設投資額の推移は以下の通りですが、2020年は減少の見通しです。
・2001年から2010年にかけて減少:不況
・2010年から2019年にかけて増加:好況
国土交通省総合政策局は、令和2年度(2020年度)における国内の全建設活動について、出来高ベースの投資額推計を公表しています。
2020年度の建設投資は63兆1,600億円となる見通しで、前年度比3.4%の減少となります。
建設投資額 | 構成比率 | 前年度比 | ||
---|---|---|---|---|
政府投資 | 25兆6,200億円 | 41%※1 | +3.1% | |
民間投資 | 民間住宅建築投資 | 15兆200億円 | 40%※2 | -8.1% |
民間非住宅建築投資 | 16兆2,500億円 | 43%※2 | -7.2% | |
民間建築補修(改装・改修)投資 | 6兆2,700億円 | 17%※2 | -5.9% | |
小計 | 37兆5,400億円 | 59%※1 | +7.3% | |
合計 | 63兆1,600億円 | 100%※1 | +3.4% |
※1:建設投資額を100%に設定した場合の割合
※2:民間投資額を100%に設定した場合の割合
2001年からの建設投資額の推移は下図の通りです。
ここ10年間の建設業界は、2011年の東日本大震災による復興需要を始めとして、国土強靭化計画や東京五輪による首都圏の再開発・ホテル需要を背景に、順調に建設投資額の増加が続きました。
しかし、2020年初頭から世界的に広まった新型コロナ感染拡大による悪影響は好況であった建設業界にも及び、建設投資額は減少に転じる見通しです。
特に、宿泊業や飲食店などの観光サービス業界への悪影響が深刻な状態です。中小規模の建設工事の中止が相次いでおり、中小建設会社にも悪影響を及ぼしています。
建設業界の課題として、人手不足や材料費の高騰などが挙げられます。
人手不足とは、施工管理を担う現場監督や職人などの作業員が不足していることを指します。
建設現場は、1箇所の現場に対し1人の現場監督の配置が基本となります。しかし、現場監督が不足しているため、業務経験を積むと複数の工事現場を掛け持ちすることもあり、休日が取りにくくなります。
また、自身の担当する工事現場が工程通りに進捗していても、他の現場監督の担当する工事現場が大幅に遅れている場合、応援に駆け付けるように会社から指示が出る場合もあります。
このような状況から、結果として離職率が高くなり慢性的な人手不足に陥るという悪循環になっています。
下図は、技能労働者の推移を表したものです。
大手ゼネコンでは改善されている企業も多くありますが、中小の建設会社では悪しき慣習が残っている企業が少なからずあります。
工事現場は、通常8時~17時まで稼働し、この時間帯に職人などの作業者が工事を進めます。
しかし、現場監督は通常7時~20時まで、場合によっては24時前後まで働くケースが少なからずあります。
担当する工事現場によって、通勤時間は大きく変わります。
例えば首都圏の場合、東京都23区内での工事現場を担当し、建物が竣工したとします。次に担当する工事現場は、同じ東京都23区内になる場合や千葉県内・埼玉県内・神奈川県内の工事現場になる場合があります。
自宅から近い工事現場であれば、通勤時間が片道30分以内という場合もありますが、自宅から遠い工事現場であれば、片道2~3時間という場合もあります。そうなると、労働時間以外に通勤時間で1日4~6時間を要することになります。
施工管理を担う現場監督は、基本的に休日が週に1回です。その理由は、主に以下の通りです。
・竣工日(完成日)が決められているため、工程に余裕がない場合が多い
・職人などの作業員の人手不足により、仕事を捌けない
・作業員のペースに合わさざるを得ないため、休めない
特に、竣工日近くになると工期に間に合わさないといけないため、休日返上で働かざるを得なくなるため、工事現場によっては1か月間休みが無いケースも少なからずあります。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大による影響により、アメリカ国内での住宅建設が一時期落ち込みました。2020年5月のロックダウン解除後から住宅建築需要が増加し、7月頃からその動きは顕著になりました。2021年2月に低下はしたものの、住宅建築許可件数は前年より高い水準を維持しています。それらに伴い、木材価格の高騰が発生しました。
アメリカにおいて、膨大な財政出動と低金利政策が取られた結果、リモートワークで自宅にこもるようになった市民が住宅を郊外に新しく購入したり、リフォームする流れが進みました。
同様な動きがアメリカ以外の国々でも見られ、世界的な木材価格の高騰が引き起こされたことにより、「ウッドショック」と言われます。その影響が日本にも及び、木材関連の価格高騰により仕入れが難しくなり、住宅建設が遅延・中止する原因になっています。
下図は、丸太価格の推移を表す図です。
2021年東京オリンピックが閉幕し、ビッグプロジェクトは一服感がありますが、ビッグプロジェクトは間髪無く進行しています。
首都圏においては主に以下の通りで、目白押しとなっています。
・首都高速道路の日本橋周辺における地下化工事
・中央区日本橋の再開発
・中央区築地市場の再開発
・千代田区常盤橋における超高層ビル建築(日本一)
近畿圏においては以下の通りです。
・2025年:大阪国際博覧会開催
・2026~2027年:大阪国際博覧会閉幕後にIR(統合型リゾート)開幕
・和歌山市においてIR開幕
・大阪市北区の再開発
また、交通においては以下などがあります。
・東京・名古屋・大阪を結ぶリニア中央新幹線、関連する都市開発
・北陸と大阪とを結ぶ新幹線
・東京メトロ銀座線:全駅リニューアル計画
近年、大地震や大型台風による甚大な被害が多発していますが、その復興事業に対しても多額な建設費が投入されています。
・東日本大震災の復興事業の継続
・2018年台風21号による災害対策
(関西国際空港周辺の堤防高層化・木津川水門建替え・阪神電鉄なんば線淀川橋梁架け替え など)
・2019年台風19号による災害対策として、荒川沿い低地の高台化
(東京都北区・板橋区・足立区・荒川区・江戸川区・葛飾区・墨田区・江東区 など)
・熊本県球磨川上流のダム建設案復活
さらに、国内各地のインフラ設備が老朽化しており、建替え・メンテナンスが数多く発生します。
以上を鑑みると、現状はコロナ禍により工事進捗は遅々としていますが、コロナ禍が収束すると一気に手持ち工事が動き出し、建設業界は引き続き好況を維持すると考えられます。
人口減少・少子高齢化により、建設業界の担い手が不足しています。建設現場の生産性向上により、「建設労働者の給与確保」や「週休2日の実現」などの働き方改革の推進は緊急の課題と言えるでしょう。
国土交通省は、平成28年に建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」を公表しました。
「i-Construction」は、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用による生産性向上が大きな柱となっており、ICTにより建設現場から得られるビッグデータを効果的に活用する必要があります。
そのためには、近年の技術開発が著しい以下の活用が必要です。
・AI(Artificial Intelligence:人工知能))
・IoT(Internet of Things:モノのインターネット)
また、建設現場の喫緊の課題である熟練技能者の経験による技・ノウハウ・勘の伝承を効果的に実施する必要があります。
確実に建設工事の品質を確保する観点から、AIやIoTの効果的な活用方策の研究が必要です。
さらに、ビッグデータを管理・連携するために、時空間的なデータ管理を整えた3次元情報基盤の構築が不可欠となります。
国土交通省は、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICTなどを活用する「i-Construction」を推進します。
・ドローンなどを活用しての3次元測量を行い、調査日数の削減を図ります。
・3次元測量点群データと設計図面との差分から施工量を自動算出
・3次元設計データ等によりICT建設機械を自動制御し、建設現場のICT化を実現
AI導入の目的は、以下の3点となります。
①働き方改革の実現
②建設現場の2割の生産性向上の実現
③生産性向上に不可欠な民間投資を誘発
これらの目的は、IoTなどを利用して施工現場から収集されるビッグデータを活用します。
AIを利用してビッグデータを解析し、調達、施工管理などの高度化の実現を図るものです。
3つの目的をさらに詳しく解説すると下表の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
働き方改革の実現 |
|
建設現場の2割の生産性向上の実現 |
|
生産性向上に不可欠な民間投資を誘発 |
|
AI導入後に期待される効果を下表にまとめます。
課題項目 | 期待される効果内容 |
---|---|
業務へのAI適用 |
|
調達の高度化 |
|
施工管理の高度化 |
|
情報連携の高度化 |
|
以上、建設業界の概要や現状、課題、動向、IT化について解説しました。
建設業界の課題は、人手不足(労働時間・通勤時間・少ない休日などが原因)や材料費の高騰などが挙げられます。
人手不足については国土交通省が進める「i-Construction」により、改善を図る試みが進められており、材料費(木材)の高騰については、輸入木材に依存するだけでなく、国内材木市場の見直しなど基本的な施策から始める必要があります。
また、コロナ禍の影響により、2020年の建設投資額は減少する見通しですが、コロナ禍が収束し人流が復活すれば、再び建設投資額は上昇する可能性は高まるでしょう。
建設業界のDX(Digital Transformation )と相まって、益々好況になることが期待できます。