2021年11月12日
プラントエンジニアリングは、国内外の産業振興や生活支援のために無くてはならないインフラ施設を構築する技術となります。その中でも、プラント設計は、建物内外のハード面の基本設計を担う重要な業務です。
この記事では、プラント設計の概要や仕事内容、年収・給料、資格、仕事の特徴について解説します。
プラント設計業務の魅力について知ることができますので、ぜひ最後までご覧ください。
プラント設計は、工場や生産設備、処理設備などの設計を行う業務で、日常生活を支える重要なインフラを担います。プラントの種別をまとめると、下表の通りです。
プラントの種別 | プラント施設の内容 |
---|---|
食品プラント | 加工食品や飲料などを生産する施設 固形の食品プラント:肉や魚介、野菜、卵、チーズなどを使用した加工食品 液状の食品プラント:ミネラルウォーターや清涼引水など |
産業プラント | ガソリン・プラスチック・医療品生産などを製造する施設 |
化学プラント | 原油・天然ガスを精製して合成樹脂製品などを製造する施設 |
製鉄プラント | 主原料である鉄鉱石・石炭・石灰石より、厚板・薄板・形鋼・鋼管などの各種鉄鋼製品を製造する施設 |
発電プラント | 電気をつくる発電所 原子力発電所、石炭火力発電所、LNG火力発電所、石油等火力発電所、水力発電所(ダムなど)、新エネルギー発電所(太陽光発電・風力発電・バイオマス発電・地熱発電)など |
ごみ焼却プラント | ごみを焼却炉に投入し、安全に効率よくごみ処理する施設 焼却炉の中に空気を送る送風機やごみ焼却による熱エネルギーを回収する廃熱ボイラ、償却の際に発生する有毒ガスを無害化するバグフィルターなど、様々な設備を保有 |
水処理プラント | 水を利用目的に応じた水質に処理することや、周辺環境に悪影響を与えない水質にして排水処理するための施設 河川水から上水を製造する浄水処理施設、海水の淡水化施設、工業用純水を製造する施設、下水処理施設など |
プラント設計の仕事内容としては、大きく分類して基本設計と詳細設計があります。
業務スキームは基本設計が完了した後に詳細設計に入り、基本設計と詳細設計に求められる能力は、若干異なります。
基本設計は、依頼主の発注内容である仕様書の品質・性能・強度などの条件を満たし、プラント稼働を効率よくするための設計業務です。
作業員の作業や移動、原材料品の搬入・導入や製造・処理過程、完成品の搬出などがスムーズに行われるように、主に以下の業務を行います。
・敷地内の建物・道路の配置計画
・建物内の設備機械(ボイラー、撹拌槽、焼却炉、計測器など)の配置計画
・原材料の移動機械(ベルトコンベア、クレーン、運搬車など)の動線計画
また、プラント設計の基本的な大枠を決める設計となるため、「アイデアに付随した提案力」「敷地・建物全体を俯瞰した洞察力」などが求められます。
詳細設計は、基本設計による大枠の計画に基づいて、建物の建築設計や土木設計、機械設備設計、装置設計などの設計業務を指します。
機械設備が順調に稼働し、製造・処理ラインがスムーズに流れるために、個々の設備機械の性能・品質・強度・使い勝手だけでなく、作業員や原材料・完成品などの動線などを詳細に詰めていきます。
建築以外にも、機械・電機・化学・衛生・制御・システムなどの専門知識・ノウハウ・スキルなどが求められます。
プラント設計には、専門知識やノウハウの他に、下記のスキルも求められます。
プラント設計は、非常に専門性の高い業務です。また、希少性も高くなりますので、年収・給与は高くなります。
以下では、プラント設計の年収・給与について解説していきます。
プラント設計技術者の平均年収は、約600万円~700万円となります。
サラリーマンの平均年収が約420万円となるため、比較すると高めの水準といえるでしょう。年代別の目安を見ると、以下のようになります。
・20代:平均年収:約400万円
・30代~50代:平均年収:約700万円
・50代~60代:平均年収:約1,000万円
・管理職:年収1,000万円超
※大企業と中小企業との格差はあります。
傾向として、プラント設計業務は、日本国内のプロジェクトよりも海外のプロジェクトの方が増加しており、技術的な専門知識以外にも、語学力やコミュニケーション能力などが必要になるため、高額の年収設定になるといえます。
日本を代表するプラントエンジニアリング会社の大手企業を挙げると以下の通りです。
・日揮
・千代田化工建設
・栗田工業
・東洋エンジニアリング
・東芝プラントシステム
プラント設計に活かせる資格として、一級建築士、技術士、電気主任技術者、建築CAD検定試験などがあります。
以下では、それぞれの資格について詳しく紹介していきます。
建築士は、商業ビルやオフィスビル、高層マンション、一般住宅などの建物の設計・施工管理などを行う技術者を指します。設計・施工管理は、法律上建築士のみに認可された独占業務であり、国家資格となります。
建築士法で規定されている建築士は、一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類があります。
中でも、一級建築士は全ての建築物の設計・施工管理を担うことができ、国土交通省が実施する試験に合格すると国土交通大臣の免許を取得することができます。
また、国内の公共工事を入札する上で一級建築士1人につき評価点5点がプラスされるため、企業にとっても一級建築士を有していると有利になります。
プラント設計の場合
・意匠設計:建物外観や内部デザイン
・構造設計:建物の基礎・柱・梁・床・屋根といった主要構造部の力学解析
・設備設計:空調や照明、上下水道、ガス管、電気設備などの設計・管理
・工事監理
プラント工事現場の場合
・現場監督などの指導・管理業務
・建築物に関する調査
一級建築士は難関資格であり、合格率は10%~12%です。
ただ、令和2年3月1日建築士法の改正により国家試験を受験するための条件が大幅に緩和され、受験時での実務経験が無くても受験可能となったため、合格後に実務経験を満たした時点で免許取得が可能となりました。
(例)大学の建築学科で規定科目の単位を取得し卒業すれば、一級建築士の受験が可能
技術士は、主に以下を備えた技術者を指し、公益社団法人日本技術士会が認定する国家資格となります。
・科学技術に関する技術的専門知識
・高度な専門的応用能力
・豊富な実務経験
・公益を確保するため、高い技術者倫理
プラントにおいては、インフラ施設の技術調査・設計・工事監理など、監理業務を担当する役割を担います。また、技術士法で規定されている技術士には、技術士補、技術士の2種類があります。
一級建築士同様技術士においても、国内の公共工事を入札する上で技術士1人につき評価点5点がプラスされます。
文部科学省令で規定する技術部門は、下表の通りです。
機械部門 | 船舶・海洋部門 | 航空・宇宙部門 | 電気・電子部門 |
化学部門 | 繊維部門 | 金属部門 | 資源工学部門 |
建設部門 | 上下水道部門 | 衛生工学部門 | 農業部門 |
森林部門 | 水産部門 | 経営工学部門 | 情報工学部門 |
応用理学部門 | 生物工学部門 | 環境部門 | 原子力・放射線部門 |
総合技術監理部門(第二次試験のみ実施、第一次試験は当分の間実施されません。) |
技術士になる過程を図解すると、下図の通りです。
技術士は難関資格であり、第二次試験合格率は、9.4%(令和元年度)です。
受験資格は、第1次試験は不要ですが、第2次試験は実務経験7年以上、技術士補を有している場合は実務経験4年以上が必要となります。
電気主任技術者は、発電所や変電所、工場、ビルなどの受電設備や配電設備の保安監督に従事することができ、社会的評価が高い資格です。
電気設備を設置している事業主は、工事・保守や運用などの保安監督者として、電気主任技術者を選任する必要のあることが法令で規定されています。
電気主任技術者の資格は取り扱う電圧により、第一種、第二種、第三種に分類されています。
種別 | 内容 |
---|---|
第一種電気主任技術者 | 全ての事業用電気工作物 |
第二種電気主任技術者 | 電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物 |
第三種電気主任技術者 | 電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物 (出力5千キロワット以上の発電所を除く) |
第一種・第二種試験は一次試験と二次試験があり、第三種試験は一次試験のみになります。
一次試験は、理論・電力・機械・法規の4科目で、科目別合格性です。一方で二次試験は、電力・管理、機械・制御の2科目で、科目別合格性ではありません。
第一種試験の合格者の推移を下表にまとめます。
年度 | 一次試験 | 二次試験 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
受験者 | 合格者 | 合格率 | 受験者 | 合格者 | 合格率 | |
平成28年度 | 1,519人 | 331人 | 21.8% | 581人 | 75人 | 12.9% |
平成29年度 | 1,567人 | 363人 | 23.2% | 569人 | 86人 | 15.1% |
平成30年度 | 1,566人 | 378人 | 24.1% | 615人 | 84人 | 13.7% |
令和元年度 | 1,566人 | 379人 | 24.2% | 598人 | 103人 | 17.2% |
令和2年度 | 1,508人 | 759人 | 50.3% | 933人 | 134人 | 14.4% |
第一種電気主任技術者試験の二次試験の合格率は、12%~17%となります。
プラント設計は、CAD(コンピュータ設計支援システム)を利用して図面作成します。CADを利用して建築図面作成能力の技量を測る資格が、「建築CAD検定試験」です。
試験は、自身の建築知識を基に与えられた条件のもと以下を測り、CADの知識のみでなく真の実務能力が問われます。
・建築一般図を作成する実力
・与えられた建築図面を、CADシステムを使用して正しくトレースする技能
等級は、準1級・2級・3級・4級で構成されます。
過去10年間の準1級、2級、3級、4級の合格率は、下表の通りです。
準1級の合格率は、年度により2%~38%とまちまちです。
年度/級 | 准1級 | 2級 | 3級 | 4級 |
---|---|---|---|---|
2020年度 | 2.0% | 67.7% | 64.8% | 92.5% |
2019年度 | 24.5% | 58.6% | 71.7% | 89.8% |
2018年度 | 2.4% | 52.1% | 67.3% | 90.1% |
2017年度 | 30.3% | 51.7% | 73.8% | 91.4% |
2016年度 | 12.2% | 55.1% | 72.1% | 91.1% |
2015年度 | 35.7% | 55.7% | 78.9% | 90.1% |
2014年度 | 0.0% | 55.7% | 73.4% | 88.9% |
2013年度 | 28.5% | 55.1% | 76.7% | 91.2% |
2012年度 | 32.8% | 57.4% | 75.9% | 90.0% |
2011年度 | 37.7% | 52.9% | 77.7% | 91.9% |
プラント設計の仕事の特徴としては、受注金額が大きく海外での勤務の可能性があり、求められる知識の幅が広いことが挙げられます。
プラント設計は、大規模プロジェクトになるケースが多くなりますので、受注金額も大きくなります。
プロジェクトによっては、数千億円規模になるケースもありますので、そのプラント設計対価も100億円前後になる場合があります。大規模プロジェクトであるがゆえに工期も長期間となり、数多くの企業や人が関わります。
日本国内でのプラント設計の市場規模が頭打ちであり、飽和状態にあります。そのため、発展が見込まれる東南アジアや南アジア・中東・アフリカなどへの海外進出に意欲的なプラント設計会社が増加しています。
特に新興国の課題は、人口増加・産業の発展に伴うエネルギー需要の増加です。エネルギー供給体制の構築が急務であり、安定した供給を行うためにも高い技術力のあるエネルギープラント設計が求められているため、海外で仕事をしてみたい方にとっては魅力的な舞台になるでしょう。
プロジェクト遂行国数 | 海外駐在者数 | 海外出張件数 | 海外駐在者数の割合 |
---|---|---|---|
80カ国以上 | 300名 | 300件/月 | 20% |
例えば、日本国内のプラントエンジニアリング最大手の日揮では、海外売上高は82%、国内売上高は18%となります。下表にその内訳を記します。
日本 | 欧州・CIS | 北米・中南米 | 中東 | アジア | オセアニア | アフリカ |
---|---|---|---|---|---|---|
18% | 16% | 7% | 17% | 11% | 21% | 10% |
上記でも触れましたが、プラント設計は工場などの建築設計や敷地造成・上下水道施設などの土木設計、機械設備設計などが必要になります。それらの設計スキル以外にも、プラントの種別によっては化学・電機・電気・衛生・制御・システムなどの幅広い知識やスキルが求められます。
そのため、広く深い知識を求められますので、大学院修了者が数多く所属していることも特徴です。
以上、プラント設計の概要や仕事内容、年収・給料、資格、仕事の特徴について解説しました。
プラント設計は大規模プロジェクトが多い分、問題やトラブルにも数多く見舞われることになり苦労も絶えませんが、完成した時の喜びは何物にも代えがたい経験や実績となります。
国内だけでなく、世界各国の産業振興のためにもプラントは重要な役割を担います。今後、益々の需要増加が見込まれるプラント設計に挑戦されることをオススメします。