2021年12月16日
設計士と建築士との違いは明確です。設計士という資格はありませんが、建築士は国家資格となります。
また、建築士は、一級建築士、二級建築士、木造建築士と3種類に分類され、それぞれに建築設計ができる領域が決められています。
そこで今回は、設計士と建築士の違いや仕事内容、建築士の資格について解説します。
設計担当者と打合せなどで関わる機会が多い方や、これから設計士もしくは建築士を目指される方はぜひ最後までご覧ください。
設計士は、資格が無く誰でもなることができる一方、建築士は、建築士試験に合格し、国家資格を取得した人だけが名乗れる資格です。
建設業界では、建築士という国家資格を所有せず、設計や補助業務を行う人を設計士といいます。
設計士という資格は存在しませんし、明確な定義もありません。他の業界でも、機械や自動車、ボートなどを設計する人においても設計士といわれているため、設計士は建設業界に限った用語ではありません。
建設会社やハウスメーカー、建築設計事務所などに入社し、設計部署において設計業務に携わることができれば、建設業界の設計士ということになります。
建築設計は、基本的に建築士の資格を有していないとできませんが、以下に関しては、建築士の資格を有していなくても可能のため、設計士でも建築設計が可能な場合があります。
・100㎡未満の木造建築物
・30㎡未満、高さ13mかつ軒高9m以下の建築物
建築士は、建築士試験に合格し国家資格を取得した人だけが名乗れる職業です。
建築士の資格を取得した場合、建築物の設計・工事監理などに従事できることが建築士法で規定されています。
建築士の資格は、以下の3種類に分類されています。
・一級建築士:全ての建築物を扱うことが可能
・二級建築士:延べ面積300㎡以下、高さ13mかつ軒高9m以下の建築物を扱うことが可能
・木造建築士:延べ面積300㎡以下、2階建て以下の木造建築物を扱うことが可能
一級建築士、二級建築士、木造建築士の業務範囲を下表にまとめます。
延床面積S(㎡) | 木造 | 木造以外 | 全ての構造 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
高さ≦13mかつ軒高≦9m | 高さ≦13mかつ軒高≦9m | 高さ>13m又は軒高>9m | |||||
階数1 | 階数2 | 階数3以上 | 階数2以下 | 階数3以上 | |||
S≦30 | A | C | A | ||||
30<S≦100 | |||||||
100<S≦300 | B | ||||||
300<S≦500 | D | ||||||
500<S≦1,000 | 一般 | ||||||
特定* | |||||||
1,000<S | 一般 | C | |||||
特定* |
A:誰でもできる
B:一級建築士、二級建築士、木造建築士でなければできない
C:一級建築士、二級建築士でなければできない
D:一級建築士でなければできない
*:特定とは、学校、病院、劇場、映画館、観覧場、公会堂、オーディトリアムを有する集会場、百貨店をいう。
※1:「建築士の種類と業務範囲」 公益財団法人建築技術教育普及センター
ここでは、設計士と建築士の仕事内容をそれぞれ解説します。
設計士の仕事内容は、基本的に建築士の補助業務となります。
建築士の指導に基づき、業務にあたります。会社によっては、能力があれば上席の建築士の責任下において、大きな建築プロジェクトなどを任せられるケースもあります。この場合の能力とは、建築士にも共通していえることですが、創造性・空間把握能力・コミュニケーション能力などです。
建築設計を行う場合、デザインをゼロから生み出す創造性が必要になります。
施主は、建築物の機能性もさることながら、美しさやカッコ良さといったデザイン性も求めます。施主の要望に適うデザインを創造する必要があるため、過去の建築デザインの知識は当然として、最先端の建築デザインを習得することも大切になります。
空間把握能力は、頭の中で描いた建築物の立体的なイメージを、平面図、立面図、断面図などで描き起こし、逆にそれらの図面から建築物の立体的なイメージを思い描ける能力です。
施主などに説明する際には、わかりやすい外観パースや内観パースを作成することで、空間イメージが伝えやすくなります。場合によっては、模型を製作してプレゼンする場合もあります。
施主の要望を満たすためにも、顕在要望だけでなく、潜在要望をも聞き出す必要があります。
施主にも様々なタイプがあり、要望を上手に伝えるタイプもあれば、多くを語らず、要望が不明確なタイプもあります。その場合、様々な視点からヒアリングを行い、潜在要望を探ることができれば、手間も省け、設計作業をスムーズに進行することができます。
逆に施主の要望の把握ができていないと、何度もやり直しを重ねることになり、無駄な作業が増えてしまうため、コミュニケーション能力やヒアリング力は特に重要となります。
建築設計には、意匠設計、構造設計、設備設計があります。
これまでは、意匠設計→構造設計→設備設計という一方通行の業務の流れでしたが、現在では、構造技術の著しい発展・高度化により、より複雑なデザインが可能となりました。
そのため、意匠設計の初期段階から構造設計者も加わり、意匠と構造が両立する設計を試みています。
また、BIM(Building Information Management)の発展・普及により設備設計の担当者も意匠設計・構造設計の段階からオンライン上にて設計内容を閲覧することが可能となっています。
したがって、相互にフィードバックをしながら業務を進めることが可能な設計環境になりつつあります。
意匠設計は、発注者となる施主の建築依頼を受け希望する建築物を建てるために、ヒアリングを始めるところから始めます。
例えば、建築物のデザインや間取り、構造、設備、予算などです。住宅設計の場合、施主の家族構成やライフスタイル、ライフプランなどをヒアリングし、最適な動線や間取りを計画し提案します。
つまり、敷地条件や周辺環境から建物配置を決め、外観・内観・間取りなどのデザインを行う仕事です。
構造設計の仕事内容は、主に以下の通りです。
・建築物の基礎や土台、柱、梁、床、屋根などの構造設計を行い、構造設計図の作成
・設計監理や耐震設計、補強設計など、建築物の構造や安全性能に関する業務
・意匠設計から挙がるデザインや間取りを活かし、構造的に無理が生じれば、フィードバックし調整
・設備設計から挙がる様々な設備・器具などの荷重や上下水道・ダクトなどの配管を調整
設備設計は、上下水道や空調、音響などの環境を計画します。上下水道設備や空調設備、衛生設備、電気設備などの設計を行い、機械の配置や配管の位置などを、意匠設計、構造設計と調整しながら仕事を進めます。
建築士には、一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類がありますが、それぞれの資格の概要や難易度、受験資格について解説します。
一級建築士は、全ての建築物の建築設計が可能です。
一級建築士の直近3年間の試験結果を下表にまとめます。
平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | |
合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | ||||
学科 | 25,878人 | 18.3% | 25,132人 | 22.8% | 30,409人 | 20.7% |
4,272人 | 5,729人 | 6,295人 | ||||
製図 | 9,251人 | 41.1% | 10,151人 | 35.2% | 11,035人 | 34.4% |
3,827人 | 3,827人 | 3,796人 | ||||
総合合格率 | 12.5% | 12.0% | 10.6% |
受験資格がある上に、合格率も10%~12%となりますので、難易度は高いといえます。
※2:「一級建築士試験結果」 公益財団法人建築技術教育普及センター
一級建築士試験の受験資格は、建築士法第14条において、建築に関する学歴もしくは資格等により規定されています。
建築に関する学歴もしくは資格等 |
---|
大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等において指定科目を修めて卒業した者 |
二級建築士 |
建築設備士 |
その他国土交通大臣が特に認める者(外国大学を卒業した者等) |
※3:「一級建築士受験資格」 公益財団法人建築技術教育普及センター
二級建築士は、延べ面積300㎡以下、高さ13mかつ軒高9m以下の建築物の建築設計が可能です。
二級建築士の直近3年間の試験結果を下表にまとめます。
平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | |
合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | ||||
学科 | 19,557人 | 37.7% | 19,389人 | 42.0% | 18,258人 | 41.4% |
7,366人 | 8,143人 | 7,565人 | ||||
製図 | 10,290人 | 54.9% | 10,884人 | 46.3% | 11,253人 | 53.1% |
5,997人 | 5,037人 | 5,979人 | ||||
総合合格率 | 25.5% | 22.2% | 26.4% |
※4:「二級建築士試験結果」 公益財団法人建築技術教育普及センター
二級建築士試験の受験資格は、建築士法第15条において、建築に関する学歴もしくは資格等により規定されています。
建築に関する学歴もしくは資格等 | 実務経験年数(試験時) |
---|---|
大学、短期大学、高等専門学校、高等学校、専修学校、職業訓練校等において、指定科目を修めて卒業した者 | 最短0年 |
建築設備士 | 0年 |
その他都道府県知事が特に認める者(外国大学を卒業した者等) | 所定の年数以上 |
建築に関する学歴なし | 7年以上 |
※5:「二級建築士受験資格」 公益財団法人建築技術教育普及センター
木造建築士は、延べ面積300㎡以下、2階建て以下の木造建築物の建築設計が可能です。
木造建築士の直近3年間の試験結果を下表にまとめます。
平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | 実受験者数 | 合格率 | |
合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | ||||
学科 | 544人 | 57.4% | 595人 | 56.1% | 589人 | 53.0% |
312人 | 334人 | 312人 | ||||
製図 | 316人 | 64.9% | 357人 | 59.4% | 337人 | 72.1% |
205人 | 212人 | 243人 | ||||
総合合格率 | 35.8% | 33.3% | 37.8% |
※6:「木造建築士試験結果」 公益財団法人建築技術教育普及センター
木造建築士の受験資格は、二級建築士の受験資格と同じです。
以上、設計士と建築士の違いや仕事内容、建築士の資格について解説しました。
設計士は、基本的に建築士の責任下において設計業務の補助を行なうことになります。建築士は、国家資格となりますので、取得すると同時に責任も生じます。建築基準法を中心とした法令に沿って、建築物の設計を行う義務が生じます。
また、建築士でなければ、一部を除き建築設計をすることはできない独占業務となります。設計士は、いずれ建築士の資格取得を目指し、日々研鑽しています。
施主の立場で、設計担当者と打合せなどの機会がある場合、設計士と建築士の違いを把握して対応されることをオススメします。