2022年3月15日
機械設備は、維持管理を行わないと故障・不具合が発生する可能性が高くなります。万が一故障や不具合が発生すると生産ラインをストップさせる必要性があり、目標生産高に対して未達になるリスクも生じます。したがって、生産設備を正常に安全な状態で稼働させるために、必要となる対策が設備保全です。
そこで今回は、設備保全の概要や種類、保守メンテナンスとの違い、求められるスキル・資格、IoT・AIの活用について解説します。
設備保全に関わるにあたり、必要な資格を取得することやIoT・AIの導入により、生産性の向上に貢献することが可能となります。
設備保全は、機械設備が正常・安全に稼働できるように、維持管理を行う仕事です。
設備保全は、生産に関連する4M「Man(人)」「Material(原材料)」「Method(方法)」「Machine(機械)」の中の「Machine(機械)」の保全に該当します。
保全は、安全に保つという意味合いがあります。長期間にわたり機械や設備を使用すると、様々な箇所で劣化・損傷が発生し、設備の機能低下や停止といったトラブルが発生します。そうなると生産ラインをストップさせなければならなくなるため、納期に間に合わないという事態にもなり、大きな損害が生じる可能性があります。
そのため、機械設備がトラブルを起こすことなく安全に稼働するために、点検・修理を定期的に実施することが、設備保全の役目となります。
設備保全の目的は、下記の通りです。
先ほどもお伝えしたように、機械設備が故障し生産ラインがストップすると、それだけで損害が生じます。故障になる前に手を入れ、順調に生産ラインを稼働させることが、設備保全の目的です。
機械設備は、複雑で様々な種類の部品から構成されています。長期間使用すれば、各部品で徐々に劣化・損傷が発生します。その結果、故障や不具合が発生すると、機能低下や生産ラインのストップに繋がります。そのため、傷んだ部品の補修や交換は適時行う必要性があるのです。
ただし、交換の必要のない部品も交換してしまうと、経費が増加し生産物の売却価格に影響を及ぼします。この経費増加を抑えるため機械設備部品の長寿命化を図ることも、設備保全の目的の一つです。
機械設備が停止すると生産ラインもストップしてしまうため、早急に原因を究明し処置する必要があります。
機械設備が停止する原因は、故障以外にも様々なことが考えられます。それらの原因を事前に想定し、停止時間の減少を図ることも、設備保全の目的の一つです。
機械設備に不具合が発生すると生産物の品質低下に繋がり、最悪の場合には不良品を大量生産する事態に陥ります。その不良品は当然市場に出すことはできないため、大量破棄処分することとなり損害額も大きくなります。
品質低下や不良品の発生を抑制する事前のチェック体制の構築をすることも、設備保全の目的の一つです。
TPMは、Total Productive Maintenanceの略で、「全員参加の生産保全」という考え方です。
設備保全の担当者だけでなく、経営者から現場の作業員に至るまで全員が設備管理を行うことにより、設備稼働効率を最高にする方法です。
設備保全は、予防保全と事後保全、予知保全に分類されます。
設備保全 | 予防保全 | 時間計画保全 状態監視保全 |
---|---|---|
事後保全 | 機能停止型故障 機能低下型故障 |
|
予知保全 | - |
予防保全は、機械設備に故障・不具合が発生しないように、事前に行う保全業務となります。定期的に保全業務を行う日程を組み、その日程の中で故障・不具合が発生する前に手を入れ、正常に稼働できるよう処置を施します。
予防保全には、時間計画保全と状態監視保全があります。
まず、機械設備において交換するべき部品をリストアップします。リストアップは、過去の経験や知見、機械設備のマニュアルなどから行います。
リストアップした部品を、部品交換計画に組み入れ設備保全を行うことを時間計画保全といい、時間が経過した部品は故障していなくても交換するようにします。
デメリットとしては、故障していない部品も交換するため、修繕費用が高くなることです。また、部品交換計画を作成した場合、交換する時期までに交換部品を準備しておかなければならないため注意が必要です。
機械設備の状態を点検し、その状態により機械の調整や部品の交換を行うことを状態監視保全といいます。
機械設備のチェックリストを作成し、その内容に合わせ、設備保全をするため、故障していない部品の交換をする必要が無く、部品交換費用を抑えられる点がメリットです。
事後保全は、機械設備が故障、生産能力低下、不良品発注などの状態に陥った場合に行う保全業務です。
故障には、機能停止型故障と機能低下型故障があり、それらが生じた場合、事後保全が行われます。
機能停止型故障は、機械設備が停止する故障です。生産ラインがストップするため、目標生産数量の未達になる可能性があり、早急に保全し復旧する必要があります。
機能低下型故障は、機械設備の機能が低下する故障です。稼働速度が遅くなった場合や洗浄能力が低下している場合など、機械設備は稼働しているものの機能のいずれかが低下し、要求する機能を満たさなくなった状態です。不良品発生や品質低下に繋がりかねない状態となるため、事後保全が必須となります。
予知保全は、故障が生じる予兆を判断し、予兆が発生した場合に保全することです。
機械設備の様々なデータを収集し、データと故障の関係性(予兆)を判断します。データから故障の予兆判断ができると、的確な時期に設備保全を施すことが可能です。また、予兆を把握する精度が高くなると、設備保全に要する費用は最小限に抑えることができます。
IoTやAIなどのITテクノロジーの導入により、実現可能な設備保全と言えるでしょう。
定期的に機械設備の点検・修理を行う点は、設備保全と保守メンテナンスは同じです。
設備保全は、機械設備を所有し利用する側の企業が、自社資産である機械設備の安全を確保することを目的とします。
一方で保守メンテナンスは、機械設備を提供する側のメーカーが、サービスとして機械設備が正常に稼働する状態を確保することを目的とします。
設備保全を効率的に進めるためには、下記の様な意識・スキル・資格が求められます。
QCDは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)を指します。生産管理を行う上で、重要な3つの要素の頭文字からなる造語がQCDです。QCDに対する意識が高ければ、設備保全に対する取組みにも注力でき、その結果、顧客満足度の向上に繋げることができます。
3つの要素の中で一番重要視すべき要素は、Quality(品質)です。しかし、品質にこだわる余り、コストや納期に影響をきたすこともあり、相反する要素ともなります。
よって、顧客満足度の向上を図りつつ、会社の利益とスピードのバランスを考慮しながら設備保全を進めることが重要となるでしょう。
設備保全を図るには、少なくともプラントの生産ライン上にある機械や設備の機能、構造を把握しておく必要があります。構造や仕組みを理解していないと、予兆や不具合の検知ができても、また故障が発生しても、原因を究明することが不可能なため、修理することもできません。機械の知識の向上を図ることで、診断スキルや保守スキル、修理スキルなどを向上させることが可能です。
設備保全は生産ライン上にある機械設備を取り扱いますので、機械保全技能士などの資格を取得すると、より詳しく機械の点検・修理が可能となります。
また、全ての機械設備は電気により稼働しますので、電気工事士などの資格も取得しておくことで、電気系統のトラブルなどの原因を素早く究明することができ、修理も素早く施すことが可能です。
資格を取得し業務に活かすことで、スキルの向上だけでなく生産ライン稼働率の向上にも繋がり、結果として会社の利益向上にも繋がりますので、スキルアップを検討されている方はぜひ取得を目指すと良いでしょう。
設備保全は、IoT*1やAI*2との相性が抜群に良いと言われています。
機械設備に対してIoTを導入してインターネットに接続することにより、機械設備の様々なデータをクラウド上にて収集し、加工・集計などを行うことで分析が可能となります。その結果、機械設備の現時点での状況をオンライン上で定量的に把握することができるため、上記で触れた予知保全を可能にします。
また、AIを導入し連携することにより、IoTで収集されたデータをAIが自動で分析・判断し、人間では見逃してしまうような予兆を的確に捉えることができるようになります。その結果、機械設備の不具合や故障が発生する前に修理・改善を施すことができ、生産ラインをストップさせることなく稼働し続けることができます。
このようにIoTやAIの導入には大きなメリットがあるため近年導入が加速化しており、工場の見える化に貢献しています。
*1 IoT:Internet of Things;モノのインターネット
*2 AI:Artificial Intelligence;人工知能
設備保全の概要や種類、保守メンテナンスとの違い、求められるスキル・資格、IoT・AIの活用について解説しました。
設備保全の目的は、機械設備の故障を最小限にし、部品の長寿命化や停止時間の減少、生産品の品質低下や不良品の生産を防止することにあります。その目的を達成するために、予防保全・事後保全・予知保全という3種類の方法があります。
また、近年注目されているIoT・AIの導入は、設備保全の業務内容を「見える化」することに貢献し、結果として生産性が向上し会社の利益にも繋げることができるため、設備保全計画において積極的な導入をオススメします。