2022年5月13日
ビルやマンションなどの建築物には、法律で建物の構造や使用する材料が決められています。その中でも商業施設や共同住宅などには、高い基準が設けられています。その基準の中でも「耐火性能」は、実際に火災が起こった建物がどの程度火災に耐えられるのかを基準とした性能で、その性能を満たした建物を「耐火建築物」といいます。
そこで今回は「耐火建築物」について、基準の詳細やメリット・デメリットについて紹介します。
そもそも耐火建築物とは、耐火性能を有した建築物のことです。この「耐火性能」とは、建築基準法などにおいて、火災が鎮火するまでの間、火災による建築物の倒壊および延焼を防止するために建物の耐力壁や間仕切り壁・外壁・柱・床・梁などに求めている性能のことを指します。
具体的な内容は、建築基準法第2条第1項第9号の2で条件が定められており、これらに適合する建物は「耐火建築物」となります。
つまり万が一火災が発生した際でも、建物から住人や利用者が安全に避難できることや、隣接する建物に被害が出ないことが重要視されています。
とくに、マンションなどの規模の大きい共同住宅や映画館・劇場などの娯楽施設は、耐火建築物にしなければなりません。これらは建築基準法第27条により定められています。
耐火建築物と混同しやすい言葉に「準耐火建築物」があります。これは、準耐火性能を有した建築物のことで、耐火建築物の下位にあたります。「通常の火災による倒壊および延焼の防止」を目的としており、倒壊を防ぐ点までは含まれていません。
【耐火建築物】
通常の火災が終了するまでの間、火災による建築物の「倒壊および延焼を防止するため」に必要とする性能を有した建築物
【準耐火建築物】
通常の火災による「延焼を抑制するため」に必要とする性能を有した建築物
準耐火建築物の場合、火災が終わった際に建物が倒壊する恐れがありますが、耐火建築物はこれらの危険性も加味された構造になっています。
耐火構造の基準は、建築物の階数や構造部分の種類によって異なります。以下の表を見ると、高さのある(階数が多い)建築物は耐火性能が高く設定されています。
建築物の部分 | 最上階および最上階から数えた階数が2以上4以内の階 | 最上階および最上階から数えた階数が5以上14以内の階 | 最上階および最上階から数えた階数が15以上の階 | |
---|---|---|---|---|
壁 | 間仕切壁 (耐火力壁に限る) |
1時間 | 2時間 | 2時間 |
外壁 (耐火力壁に限る) |
1時間 | 2時間 | 2時間 | |
柱 | 1時間 | 2時間 | 3時間 | |
床 | 1時間 | 2時間 | 2時間 | |
梁 | 1時間 | 2時間 | 3時間 | |
屋根 | 30分 | 30分 | 30分 | |
階段 | 30分 | 30分 | 30分 |
※参考元:e-GOV 法令検索
その一方で、耐火構造の基準は以下の基準で定められています。
壁 | 間仕切壁 (耐火力壁に限る) |
45分 |
---|---|---|
外壁 (耐火力壁に限る) |
45分 | |
柱 | 45分 | |
床 | 45分 | |
梁 | 45分 | |
屋根 | 30分 | |
階段 | 30分 |
※参考元:e-GOV 法令検索
「耐火構造」と「防火構造」も混同しやすい言葉のひとつですが、その意味合いは大きく異なります。
耐火構造は上記で説明した通り、簡単にまとめると「火に耐えうる構造」です。その一方で防火構造は「外部の火災が建物に燃え移らないようにするための構造」を指します。外壁や開口部である窓や扉に用いられる構造で、熱も伝わりにくいような性能をもった素材が使われています。
防火構造のみを持つ建物は、建物内での火災に耐えられる構造ではありません。そのため火災による建物の倒壊の危険性があります。
最後に、耐火建築物のメリットとデメリットを紹介します。
上記で紹介した通り、建物の種類によっては耐火建築物でなければいけない場合もあります。しかし条件に該当しない場合は、これらのメリットとデメリットを踏まえた上で計画することになるでしょう。
耐火建築物は、万が一火災が起きた際に被害が最小限で済みますが、その一方で建築費用が高くなる傾向があります。これらを理解した上で、方向性を決めるとよいでしょう。
「耐火建築物」とは、建築基準法第2条第1項第9号の2で定める条件に適合する建築物を指します。よく「準耐火性能」や「防炎性能」と混同されやすいですが、これらと耐火性能の条件は異なるので棲み分けて覚えるようにしましょう。どの構造もメリットとデメリットは表裏一体なので、建てる場所や用途に合わせて計画しましょう。