耐震補強工事とは?工事の種類や補助金制度、費用について解説
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耐震補強工事とは?工事の種類や補助金制度、費用について解説

2022年5月25日

2022年3月16日、宮城県沖を震源とする最大深度6強の地震が発生しました。東北新幹線の脱線事故・高架橋の一部崩落や東北自動車道における舗装のひび割れ、仙台城の石垣崩壊など、各地で被害が多発しました。今後も震度6以上の地震が頻発するものと考えられるでしょう。
そこで今回は、住宅における耐震補強工事の概要や補強工事が必要な建物、補強工事の種類、補助金制度、費用について解説します。

 


 

耐震補強工事とは?

耐震補強工事は、住宅の耐震構造を強化し、地震に対する耐力を強くする補強工事です。
特に旧耐震基準の建物については、早急に耐震補強工事を行う必要があります。

旧耐震基準と新耐震基準の確認方法

旧耐震基準の建物と新耐震基準の建物との見分け方は、確認申請承認日(建築確認日)です。
旧耐震基準の建物は、1981年(昭和56年)5月31日までに確認申請の承認を受けたものが対象で、新耐震基準の建物は、1981年(昭和56年)6月1日以降に確認申請の承認を受けたものが対象となります。

旧耐震基準の建物 新耐震基準の建物
確認申請承認日
(建築確認日)
1981年(昭和56年)
5月31日まで
1981年(昭和56年)
6月1日以降

 
注意点としては、建物の竣工日(完成日)や表示登記日ではないという点です。
例えば、1982年6月に完成したマンションの場合、確認申請の承認日が1981年5月31日以前の日付であれば、そのマンションは旧耐震基準の建物となります。

 

阪神・淡路大震災で実証された新耐震基準強度

1995年1月17日未明に、兵庫県南東部(阪神間、淡路島)を中心とする大地震が発生しました。
その地震規模・被害状況は以下の通り、甚大な記録となりました。

  • マグニチュード:7.3
  • 震度:7
  • 人的被害:死者;6,434名、行方不明者;3名
  • 建物被害:全壊;104,906棟、半壊;144,274棟、全半焼;7,132棟

 
国土交通省は被害状況を考察し、「阪神・淡路大震災の場合、死者数の大半が建物等の倒壊が原因であり、1981年以前の耐震性(旧耐震基準)が不十分な建物に多くの被害が見られた」と公表しました。
下図は、1981年以前の建物(旧耐震基準)と1982年以降の建物(新耐震基準)の被害状況の程度の割合を表したものです。

※出典:「阪神・淡路大震災による建築物等に係る被害」国土交通省:「平成7年阪神淡路大震災建築震災調査委員会中間報告」

 
図1より、1981年以前の建物は「大破・中小破」が約65%、1982年以降の建物は「大破・中小破」が約25%という結果となり、その差は約2.6倍になりました。
これらのデータにより、新耐震基準での建物の耐震性は向上したといわれました。

 

耐震・免震・制震の違い

地震に対する工事の種類には、耐震・免震・制震の3種類があります。建物規模・建物用途・工事予算などにより使い分けします。

  • 耐震:地震の振動に耐える建物にするための工事
  • 免震:地震の振動が建物に伝達しにくくするための工事
  • 制震:地震の振動を建物が吸収するための工事

 

耐震補強工事が必要な建物

耐震補強工事が必要な建物としては、以下などがあります。

  • 旧耐震基準で建てられた建物
  • 過去に地震による被害を受けた建物
  • 欠陥のある木造住宅

 

旧耐震基準で建てられた建物

旧耐震基準で建てられた建物と新耐震基準で建てられた建物との違いは、地震の規模(中規模地震動・大規模地震動)に対する耐震強度の考え方が異なる点です。

地震の規模 旧耐震基準 新耐震基準
中規模の地震動
(震度5強程度)
家屋が倒壊・崩壊しない 家屋がほとんど損傷しない
大規模の地震動
(震度6強~7程度)
規定なし
(家屋が倒壊・崩壊する可能性大)
家屋が倒壊・崩壊しない

 
震度6以上の地震が頻発している昨今、旧耐震基準で建てられた建物は崩壊する可能性が高くなります。
また、旧耐震基準の建物は少なくとも築40年以上経過しており、老朽化による劣化・損傷もある可能性が高いため、早急に耐震補強工事を施す必要性があるでしょう。

 

過去に地震による被害を受けた建物

1995年に発生した阪神・淡路大震災より、日本列島は地震の頻発期に入ったといわれています。
震度7以上の主な大地震を取り上げても「1995年阪神淡路大震災」「2011年東日本大震災」「2016年熊本地震」と、3回発生しています。熊本地震においては、1週間以内に震度7を2回記録しました。
建物外観上には損傷が表れていなくても、建物内部において損傷しているケースがあります。例え鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物であっても耐震検査を受け、建物構造の耐震性を再点検する必要性があるといえるでしょう。
地震による被害が外観上に表れている建物は当然として、外観上に表れていない建物においても検査で異常が見出されれば、耐震補強工事を施す必要性があります。

 

築古の木造住宅

1995年に発生した阪神・淡路大震災の建物被害状況を分析すると、以下のような結果となりました。

  • 地耐力に応じた基礎構造になっていない建物に被害が大きい
  • 耐震壁のバランスが悪い建物に被害が大きい
  • 柱と土台などの結合部の構造が弱い建物に被害が大きい

 
それらを踏まえて2000年6月に建築基準法の改正が行われ、より厳しい耐震基準となり、特に木造建物に対する構造規定が強化されました。
この改正は、「新・新耐震基準」または「2000年基準」といわれています。中でも築古木造住宅に上記に該当する建物が多く見られ、耐震補強工事を施す必要性があります。

 

耐震補強工事の種類

耐震補強工事の主な種類は以下の通りです。

  • 基礎の補強工事
  • 壁の補強工事
  • 屋根の軽量化工事
  • 結合部の補強工事

 

基礎の補強工事

基礎が劣化・損傷している建物は、強い地震が発生すると倒壊する可能性があるため、補強工事を施す必要があります。
大がかりな耐震補強工事の事例としては、地盤沈下などで基礎が埋没している場合、既存の基礎の上部に新たな基礎を造る必要性があります。その際、建物をジャッキアップして持ち上げ、新たに基礎と土台を造り、床下にもコンクリートを打つことで補強する方法があります。
ただし、隣地との空き間隔が小さい場合は上記の工法は採用できないため、現在ある基礎の側面に鉄筋で骨組みをし、コンクリートを流し込んで新たに基礎を造り補強する方法もあります。この工法であれば、工事費を抑えることができます。

 

壁の補強工事

壁が不十分な建物や壁のバランスが悪い建物は、新しい壁を造ることや必要な箇所に筋交いや耐震金物の設置、構造用合板の設置などを行い、耐震補強する方法があります。
また、滞在時間の長いリビングや寝室を耐震シェルター化する方法もあります。部屋の中に耐震化された部屋を造るというイメージです。1階であれば、2階が崩落してもシェルター内は無傷の状態を保つことが可能となり、安全・安心の面でも貢献できる工法です。

 

屋根の軽量化工事

耐震性を強化する際に効果のある方法は、建物上部の重量をなるべく軽量化することです。建物上部の軽量化を図ると、建物全体の重心が下がり耐震性は増加します。日本瓦は格式高く見栄えも良いのですが、重量が重く耐震性の観点では不利となります。
そこで屋根材を以下などに葺き替えることで軽量化でき、耐震性の向上につなげることができます。

  • 化粧スレート
  • ガルバリウム鋼板
  • アスファルトシングル

 

結合部の補強工事

地震力は建物の弱い箇所となる結合部に集中するため、耐震金物による補強が必須となります。耐震金物の配置にも適材適所があり、以下などを結合箇所に応じて適切な耐震金物を使用します。

  • 筋交いプレート
  • ホールダウン金物
  • アンカーボルト

 

耐震補強の補助金制度について

耐震補強工事には補助金制度を活用する方法があり、適用されれば大幅な工事費用の削減ができます。
なお、補助金制度の有無や交付金額、申請条件などは自治体により異なるため、各自治体のWEBサイトにて確認するようにしましょう。

耐震診断

耐震補強工事の申請をする際、多くの自治体が耐震診断結果を求めます。耐震診断の評点により「耐震工事が必要」と判断されるか否かが決まりますので、補助金制度の適用有無にも影響を与えます。
耐震診断の費用は、木造住宅の場合10万円~40万円、鉄筋コンクリート造の場合1,000万円~2,500万円ほど必要となりますが、耐震性を点検・確認するだけでも効果がありますので受診されることをおすすめします。
なお、旧耐震基準の木造住宅は耐震診断の費用を無料化している自治体もあります。

 

補助金制度の事例

東京都千代田区では、区内にある民間建築物に対して助成金を交付しています。

● 助成金の条件

  • 1981年5月31日以前の旧耐震基準により設計・建築された木造住宅
  • 1981年5月31日以前に建築確認を得た非木造住宅

 

● 助成金の内容

助成金の内容は、木造住宅、非木造住宅(マンション以外)、非木造住宅(マンション)に分類されています。

住宅の種類 助成金の内容
木造住宅
  • 高齢者等が居住する場合が対象
    (ただし2020年度までについては高齢者等が居住しない場合も申請可)
  • 耐震診断の結果、必要とされた耐震改修に要する費用の全額
    (上限額:120万円、耐震シェルター/ベッド設置の場合上限額:40万円)
非木造住宅
(マンション以外)
<一般道路沿道の建物の場合>
耐震診断の結果、必要とされた耐震補強設計費用の3分の1(上限額:250万円)


<緊急輸送道路沿いの建物の場合>
耐震診断の結果、必要と判断された耐震補強設計費用の3分の1(上限額:500万円)
非木造住宅
(マンション)
<一般道路沿道の建物の場合>
耐震補強設計費用の3分の2(上限額:500万円)


<緊急輸送道路沿いの建物の場合>
耐震補強設計費用の全額(上限額:750万円)

 

耐震補強工事の費用はどのくらい?

耐震補強工事の費用は、劣化・損傷の度合いや補強する箇所・数量、工法などにより異なります。
具体的には、小規模工事で済めば10万円前後、大掛かりな補強工事が必要になると300万円~1,000万円ほどの費用が必要になります。

基礎の補強工事

既存基礎の側面に鉄筋コンクリートの基礎を増し打ちして新たに基礎を増設する補強工事の場合、4~6万円/㎡の単価となります。
ひび割れ部分にエポキシ樹脂を注入しての補修工事の場合、1~2万円/箇所の単価となります。

 

壁の補強工事

外壁を屋外側から筋交いや構造用合板を追加して耐力壁の増設を施す工事の場合、13~15万円/90cmの単価となります。
押入れや室内の内壁に筋交いや構造用合板で補強工事を施す工事の場合、9~12万円/90cmの単価となります。

 

屋根の軽量化工事

日本瓦などの重い屋根から軽い屋根材に葺き替える工事の場合、1~2万円/㎡の単価となります。

 

まとめ

住宅における耐震補強工事の概要や補強工事が必要な建物、補強工事の種類、補助金制度、費用について解説しました。耐震補強工事を必要とする建物は、特に旧耐震基準にて建築された建物となります。2022年時点で少なくとも40年以上は経過しており、劣化損傷の度合いもひどくなっている可能性がある建物は、早急に補強工事を施す必要性があります。その際、耐震診断を受けることにより、自治体から耐震診断と耐震補強工事に対して補助金・助成金の交付が受けられるケースがあります。上記の状況に当てはまる場合は在住する自治体のWEBサイトを確認し、耐震補強工事を実施していくようにしましょう。

 


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