2022年5月26日
地盤改良工事は、建物を安全に支えるために必要な工事です。建物を建てる際の事前調査の結果で地盤改良工事が必要か不要かが分かるため、建設工事の見積書に掲載されていないケースもあります。なお、後日地盤調査を行い地盤改良工事が必要だと分かった場合、別途100万円前後の工事費用がかかることもありますので、建物を建てる際は注意が必要です。
そこで今回は、地盤改良工事の概要や必要なケース、工事の種類、メリット・デメリットについて解説します。地盤調査結果で得られた計測値と、過去の土地履歴調査結果を併せて地盤改良工事の実施有無を判断することが重要であることが分かります。
地盤改良工事は、建物を建てる前に地盤の改良を施して強化し、建物を建てた際に傾いたり沈下したりするのを防ぐ工事です。
敷地の地表面は、一見すると何も問題が無いように見えますが、過去に川が流れ、沼地だった履歴のある土地は地中が軟弱地盤になっている可能性があります。その上に建物を立てると、時間経過とともに沈下し傾くことがあります。そのようなトラブルが発生しないように、地盤改良工事を施す必要があるのです。
また、建築会社は2007年より、「住宅瑕疵担保責任保険への加入」と「保証金の確保」が義務化されました。
住宅瑕疵担保責任保険への加入条件の一つに、地盤調査報告書の提出があります。したがって、建築会社は地盤調査を実施し、その調査結果に基づいて地盤改良工事の有無を判断し、必要と判断される場合には地盤改良工事を行わなければなりません。
一般的な戸建て住宅の場合、「スウェーデン式サウンディング試験(SS試験)」により、地盤調査が行われ、建物が建つ予定となる四隅と中央の計5箇所の地中の強度を調査します。
試験方法は、先端がスクリュー状になっている鉄棒を地面に立て、その上部に重りを積載し地中に貫入させ、25cm貫入する重さを計測するという方法です。
重り100kgを積載しても25cm貫入しない場合、鉄棒に備わっているハンドルを回転させ、25cm貫入するまでに要したハンドル回転数を記録します。
試験結果で得られた重りの重量や回転数から地盤強度であるN値を算出します。N値の数値が大きければ地盤強度は高く、数値が小さければ地盤強度は低くなります。
地盤改良工事が必要なケースは以下の通りです。
地盤調査により地耐力(建物を支える強度)を計測し、基準値を下回った場合、軟弱地盤と判断されます。
上記で解説したスウェーデン式サウンディング試験の場合、計測されたN値が土質ごとの基準値を超えるか否かで判断します。
土質 | N値 |
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粘性土換算 | 3 |
砂質土換算 | 5 |
一般的な戸建て住宅の場合、土質が粘性土でN値が3以上であれば良いとされており、N値が3未満の場合は地盤改良工事が必要と判断されています。
建物の建築予定地が歴史的・地理的に地盤強化が必要と判断された場合も地盤改良工事が必要になります。
例えば、下記の履歴を有する土地が対象です。
地盤調査はスウェーデン式サウンディング試験により、N値を計測した上で過去の土地資料(古地図、土地条件図など)や近隣状況などの調査も併せて行います。
もともと建築予定地がどのような土地であったのかを確認し、軟弱地盤と判断されれば地盤改良工事を行います。
地盤調査結果により地盤強度が小さかった場合、地盤改良工事が必要と判断されます。地盤改良工事には、表層改良工法、柱状改良工法、小口径鋼管杭工法の3種類があります。
表層改良工法は、地表面においてセメント系固化剤を用いて固める地盤改良工事で、軟弱地盤が地表から2mまでの深さの場合に用いられる工法です。地表部の軟弱地盤部分を掘削して搬出し、新たに搬入した土砂とセメント系固化剤を練り混ぜて締固め、地盤強度を高くします。
表層改良工法のメリット・デメリットを下表にまとめました。
メリット | デメリット |
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地表面の勾配が小さく地盤改良面よりも地下水位が低い土地に向いており、狭小地や変形地でも可能です。
工事業者のスキルに依存しやすく、実績数が少ない業者が施工すると設計強度に達しないケースもあります。
柱状改良工法は、地中にセメントミルクを注入しながら地盤を固めた円柱状の改良杭を造ることで、建物を支える地盤改良工事で、軟弱地盤が地表から2~8mまでの深さの場合に用いられる工法です。
直径約60cmの穴を開け、支持力のある地盤まで掘り進め、地中を掘りながらセメントミルクを注入し、地中の土と撹拌しながら円柱状の固い改良杭を造り、地盤の強度を高くします。
柱状改良工法のメリット・デメリットを下表にまとめました。
メリット | デメリット |
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軟弱地盤で不同沈下の可能性のある土地の場合に向いています。
将来、建物解体後新たに新築する際は改良杭が残っているため、地盤改良工事の再検討が必要になります。
小口径鋼管杭工法は、鋼管を地中深くにある固い地盤まで打ち込み、杭の支持力により建物を支える地盤改良工事で、軟弱地盤が地表から30mまでの深さの場合に用いられる工法です。
地表から鋼管杭を地中へと打ち込み、支持層となる固い地盤まで到達させます。地盤強度は一番高くなるので、3階建てなどの重量がある建物にも対応可能です。
小口径鋼管杭工法のメリット・デメリットを下表にまとめました。
メリット | デメリット |
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狭小地や変形地など、重機が搬入しにくい敷地や建物重量が大きい場合に向いています。
工事中に大きな騒音や振動が発生するため、工事開始前に近隣挨拶を行い、事前に騒音や振動について通知しておく配慮が必要になります。
また、圧密沈下の大きい敷地では、建物は沈下せずに建物周囲の地盤が下がり杭の抜け上がりが発生する可能性があります。
地盤改良工事の概要や必要なケース、工事の種類、メリット・デメリットについて解説しました。
建物を建てる前に地盤調査を行いますが、併せて過去の土地履歴なども総合的に判断した上で地盤改良工事の実施の有無を判断することが大切になります。
地盤改良工事には、表層改良工法、柱状改良工法、小口径鋼管杭工法の3種類がありますが、それぞれメリット・デメリット・注意点がありますので、地盤調査結果に基づき、土地形状や高低差なども鑑みながらどの地盤改良工事を選択するかを決めることが重要と言えるでしょう。