2022年8月4日
戸建住宅やマンション、店舗、事務所などの建築物を建てる際、最低限守らなければならない規定が建築基準法です。建ててもいい建物の用途や規模などが定められているため、建築を検討されている方にとって、必要最小限度の内容は知っておくべきと言えるでしょう。
そこで今回は、建築基準法の概要や建築基準法が必要な理由、規定、地震や火事などの災害対策、建築基準法以外の住宅関連の法律について解説していきます。
建築基準法とは、安全安心に生活ができることを目的として、建物の敷地、構造、設備、用途に関して最低限度の守らなければならない規定を定めた法律です。
以下は、建築基準法第1条(目的)の条文です。
※出典:「建築基準法」e-GOV法令検索
1950年に「市街地建築部法」が廃止され、同年に「建築基準法」が制定されました。その後、大地震による被害や偽造問題などに対応するため、改正を繰り返しました。
建築基準法は建築に関する多種多様な規定がありますが、大きく分類すると「単体規定」と「集団規定」から成ります。
● 単体規定
建築物の構造・設備・避難など、建物内部の耐久性・安全性・防火性・衛生に関する規定です。
● 集団規定
都市計画により、建築物の用途・高さ・面積・道路による制限など、主に建物の大きさに関する規定です。
敷地の所有者が自由に建築物を建てた場合、懸念されるのは構造上の耐久性や防火性能などです。
地震や火災が発生すると、建物の耐久性や防火性に欠陥がある場合、崩壊や延焼などのリスクが大きくなり、場合によっては建物単体のみならず、隣家などへも影響を及ぼす可能性が生じます。
建築基準法は、上記のような事態を避けるために、安全・安心に生活ができる建物を建築するために制定された法律です。
建築基準法は単体規定と集団規定から成るということは上記で解説しましたが、その中身について詳しく解説していきます。
用途地域とは、市街地を13種類の地域に分類し、各地域に建築可能な建物の用途を決めた規制です。
大きく分類すると、「住居系」「商業系」「工業系」の3種類に分けられ、これをさらに13種類に分類し、各地域に建築可能な建物の用途が決められています。
用途地域 | 用途地域の概要 | |
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住居系 | 第一種低層 住居専用地域 |
低層住宅のための地域 小規模な店や事務所などを兼ねた住宅、小中学校などが建築可能 |
第二種低層 住居専用地域 |
主に低層住宅のための地域 小中学校の他、150㎡までの一定の店などが建築可能 |
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第一種中高層 住居専用地域 |
中高層住宅のための地域 病院、大学、500㎡までの一定の店などが建築可能 |
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第二種中高層 住居専用地域 |
主に中高層住宅のための地域 病院、大学などの他、1500㎡までの一定の店や事務所など必要な利便施設が建築可能 |
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第一種住居地域 | 住居の環境を守るために地域 3,000㎡までの店舗、事務所、ホテルなど建築可能 |
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第二種住居地域 | 主に住居の環境を守るための地域 店舗、事務所、ホテル、カラオケボックスなど建築可能 |
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準住居地域 | 道路の沿道において、自動車関連施設などの立地と、これと調和した住居の環境を保護するための地域 | |
田園住居地域 | 農業と調和した低層住宅の環境を守るための地域 住宅に加え、農産物の直売所など建築可能 |
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商業系 | 近隣商業地域 | 周辺の住民が、日用品などの買物などをするための地域 住宅や店舗の他に、小規模な工場も建築可能 |
商業地域 | 銀行、映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域 住宅や小規模な工場も建築可能 |
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工業系 | 準工業地域 | 主に軽工業の工場やサービス施設等が立地する地域 危険性、環境悪化が大きい工場の他は、ほとんど建築可能 |
工業地域 | どんな工場でも建築可能な地域 住宅や店が建築可能だが、学校、病院、ホテルなどは建築不可 |
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工業専用地域 | 工場のための地域 どんな工場でも建築可能だが、住宅、店舗、学校、病院、ホテルなどは建築不可 |
※参照元:「用途地域」国土交通省
敷地に建物を建てようとする場合、戸建住宅においては幅員4m以上の道路に敷地が2m以上接しなければならず、共同住宅においては幅員4m以上の道路に敷地が4m以上接しなければなりません。(接道義務)
また、敷地が角地にある場合は2m以上の隅切りを行う義務があります。
敷地に建物を建てる際、建蔽率と容積率という規模を制限する規定があります。
建蔽率は建物の平面的な制限を規定し、容積率は建物の立体的な制限を規定します。
建蔽率とは敷地面積に対する建築面積の割合で、各自治体により建蔽率の上限が規定されています。また、建築面積とは建物を上部から見たときの投影面積を指します。
建蔽率は下記の計算式で算出されます。
建蔽率 = 建築面積 ÷ 敷地面積 × 100(%)
容積率とは敷地面積に対する延床面積の割合で、各自治体により容積率の上限が決められています。また、延床面積とは建物の各階の床面積の合計面積を指します。
容積率は下記の計算式で算出されます。
容積率 = 延床面積 ÷ 敷地面積 × 100(%)
高さ制限とは建築物の高さを制限する規制で、絶対高さと高度地区があります。
絶対高さは建築基準法により規定され、高度地区は都市計画法により規定されています。
絶対高さは、建物の高さを10mもしくは12m以内に定めた制限のことで、低層住宅の住環境を良好に保つための制限です。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域内において、建物の高さは10mまたは12mのうち、当該地域に関する都市計画において規定された建築物の高さの限度を超えてはならないと規定されています。(建築基準法第55条第1項)
高度地区は、用途地域内において市街地の環境を維持し土地利用の増進を図るため、建物の高さの最高限度もしくは最低限度を定める地区を指します。(都市計画法第9条第18項)
なお、各自治体の特定行政庁が設定するため内容は自治体より異なります。
道路斜線とは、道路の採光や通風の確保、景観の圧迫感を緩和するための高さ制限で、建物を建てるときに前面道路の反対側の境界線から一定の勾配で描いた斜線よりも低く建てないといけないという規定を指します。
上記における一定の勾配とは以下のように規定されています。
隣地斜線とは、採光や通風、日照、隣地との圧迫感を緩和するための高さ制限で、建物を建てるときに隣地境界線上の20mまたは31mの高さから一定勾配で描いた斜線よりも低く建てないといけないという規定を指します。
上記における一定の勾配とは以下のように規定されています。
北側斜線とは、日照や採光を確保するための高さ制限で、第1・2種低層住居専用地域、第1・2種中高層住居専用地域、田園住居地域の5用途地域に適用される制限です。
建物を建てるときに北側隣地境界線上の5mまたは10mの高さから一定勾配で描いた斜線よりも低く建てないといけないという規定を指します。
上記における一定の勾配とは以下のように規定されています。
日影規制とは、隣地の敷地に対して冬至日に決められた時間以上の日影が生じないようにするための高さ制限です。
冬至日の午前8時から午後4時の間、地盤面からのある高さにおいて、隣地境界線から周辺の敷地に対して以下のように規定されています。
※参照元:「日影規制の概要」国土交通省
日影規制の対象建築物は、用途地域ごとに規定されています。
用途地域 | 対象建築物 |
---|---|
第1・2種低層住居専用地域 田園住居地域 |
軒高が7mを超える建物、 もしくは3階建て以上の建物 |
上記以外の用途地域 | 高さ10m超の建物 |
外壁の後退距離とは、建物外壁と敷地境界線(道路境界線、隣地境界線)までの距離を1.5mもしくは1mと定めている建物の配置制限で、第1・2種低層住居専用地域、田園住居地域の3つの用途地域に対して規定されています。
建築基準法により、地震や火事などによる被害を拡大させないために、以下のような災害対策が施されています。
防火地域とは都市計画で指定される地域で、市街地での火災を防止するため、最も厳しい建築制限が課された地域です。
防火地域の指定範囲は、幹線道路沿いや駅前地域など市街地中心部の繁華街が大半となります。
準防火地域とは都市計画で指定される地域で、防火地域の次に厳しい防火に対する建築制限が課された地域です。
準防火地域の指定範囲は、防火地域の外側広範囲となります。
法22条区域とは建築基準法第22条により規定された区域で、防火地域・準防火地域より建築制限はかなり緩やかになります。
法22条区域の指定範囲は、防火地域・準防火地域のさらに外側広範囲となります。
建築基準法以外の注意したい住宅関連の法律としては、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(略称:建築物省エネ法)」などがあります。
建築物省エネ法に基づく省エネ基準は、建物と設備機器(冷暖房設備、換気設備など)を一体化して建物全体の一次エネルギー消費量を評価するものです。
今までは努力義務規定で強制力の無い省エネ基準でしたが、2020年より全ての新築住宅に対して義務化されることになりました。
住宅関連の法律としては他にも都市計画法、宅地造成等規制法、消防法、水道法、下水道法などがあります。
建築基準法の概要や建築基準法が必要な理由、規定、地震や火事などの災害対策、建築基準法以外の住宅関連の法律について解説しました。
建築物の建築計画を立てる際は、上記で解説したように建築基準法の様々な規制をクリアする必要があります。また、建築基準法以外にも都市計画法や建築物省エネ法などの法律も加味して検討する必要があります。
それらの必要最低限度の知識を身に着けておくことにより、建築士に対しても意見や質問を投げかけることができますし、建築士を通してノウハウを上手に活用することで、建築計画をより理想に近づけることができますので、上記内容の概要だけでも把握しておくことをオススメします。