2023年3月9日
建設業界では、毎年のように入札談合が報道されていますよね。価格競争による低価格での請負を避けるために、建設業界ぐるみで行われているように感じられます。そこでこの記事では、独占禁止法の概要や談合の事例、談合がなぜ悪いのか、談合とカルテルとの違いについて解説します。
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下、独占禁止法と表記)では、以下を禁止しています。
私的独占は、独占禁止法第3条で禁止されている行為です。
参考元:「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」公正取引委員会
私的独占には、排除型私的独占と支配型私的独占があります。
排除型私的独占は、事業者が不当な低価格販売などの手段を用いて、単独もしくは他の事業者と共同して相手を市場から排除し、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為です。
支配型私的独占は、株式取得などにより他の事業者の事業活動に制約を与えて、事業者が単独もしくは他の事業者と共同して市場を支配しようとする行為です。
不当な取引制限は、独占禁止法第3条で禁止されている行為です。不当な取引制限には、カルテルと入札談合があります。
カルテルは、本来ならば各事業者が自主的に決定すべき商品の価格や販売・生産数量などを、事業者もしくは業界団体を構成する事業者が連絡を相互に取り、共同で取り決める行為です。
入札談合は、国や地方自治体などの公共工事や物品などの公共調達に関する入札において、事前に受注者や受注金額を決定する行為です。
不公正な取引方法は、独占禁止法第19条で禁止されている行為です。
参考元:「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」公正取引委員会
不公正な取引方法は以下の観点より、公正な競争を阻害される場合に禁止されます。
不公正な取引方法について、独占禁止法のほか、公正取引委員会の告示により内容を指定します。指定内容には以下があります。
一般指定での不公正な取引方法には、以下などがあります。
特殊指定での不公正な取引方法は、以下の3つが指定されています。
談合における独占禁止法の事例として、以下の観点でそれぞれ挙げていきます。
平成27年1月16日、公正取引委員会は、福井県経済農業協同組合連合会(以下、福井県経済連と表記)に対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき、排除措置命令を行いました。福井県経済連は、同法第3条の規定に違反する行為を行っていました。
参考元:「(平成27年1月26日)福井県経済農業協同組合連合会に対する排除措置命令等について」公正取引委員会
※1 特定共乾施設工事:福井県に所在する農業協同組合が施主として、同県が実施する「おいしい福井米生産体制整備事業」(平成24年3月31日以前にあっては「おいしい福井米づくり事業」)と称する補助事業により発注した穀物の乾燥・調整・貯蔵施設の製造請負工事等のこと
令和元年7月11日、公正取引委員会は、希望制指名競争見積り合わせの方法により、東京都が発注する排水処理施設※2運転管理作業における見積り合わせ参加業者に対し、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました。
また、東京都の職員が違反行為期間中に発注された特定運転管理作業について、特定事業者の従業員に対し、非公表の予定単価に関する情報を教示していました。その行為が入札談合関与行為防止法に抵触する入札談合等関与行為と認められたため、東京都知事に対し、同法の規定に基づき、改善措置要求が行われました。
※2 排水処理施設:東村山浄水場、玉川浄水場、小作浄水場、金町浄水場、三郷浄水場、朝霞浄水場、三園浄水場
※参考元:「(令和元年7月11日)東京都が発注する浄水場の排水処理施設運転管理作業の見積り合わせ参加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令、東京都に対する改善措置要求等について」公正取引委員会
※3 既存業者:見積り合わせが行われる時点で当該浄水場の排水処理施設運転管理作業を請負っている者
公正取引委員会は、荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するため、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)を指定しています。なお、以下の対象となります。
※参考元:「物流特殊指定(特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法)について」公正取引委員会
特定荷主が行う不公正な取引方法について、一般的な事例を挙げます。
談合は、公正な競争を阻害し、税金の無駄遣いに繋がる悪質な行為です。以下は、談合が悪いとされる理由です。
談合は、確実に落札し、出来る限り高額で落札するために行われる行為です。そのため、落札者を持ち回りで決めるため、国や地方自治体などの発注者が設定した最低落札価格よりも大幅に高くなった金額で入札できるように取り決めが行われるため、その分の税金が余分に使用されることとなります。
事業者同士が入札で価格競争する必要がなくなるため、建設技術力の向上や建設価格の削減など、経営努力に対するモチベーションが失われます。そうなると、技術革新のスピードを競わなくなり、低価格での建設努力も行われなくなるため、建設業界全体の発展にとってはマイナスになります。
談合は建設業界、カルテルは製造業界において多く見られる行為です。以下では、談合とカルテルの違いについて解説します。
カルテルとは、本来は各事業者が自主的に決定すべき商品の価格や販売・生産数量などを、事業者もしくは業界団体を構成する事業者が連絡を相互に取り、共同で取り決める行為です。
談合とカルテルの違いを下表にまとめました。
談合 | カルテル | |
---|---|---|
目的 | 指名入札業者が、工事受注に際して競争入札を避けて高値で落札するため | 同一業種の各企業が、独占的利益を得るため |
行為 | 事前に入札参加業者と話し合い、落札業者と落札額を決定 | 価格競争を避けて価格の維持を図り、価格協定を締結 |
多く見られる業界 | 建設業界 | 製造業界 |
独占禁止法の概要や談合の事例、談合がなぜ悪いのか、談合とカルテルとの違いについて解説しました。談合は、当初想定された落札額を大幅に上回る価格で落札させる悪質な行為です。その行為により、多額な税金が無駄になります。談合を防御するために、社内でのコンプライアンスに対する教育を実施し、手を染めないように努力をし続けることが大切といえるでしょう。