吊り足場と他の足場の違いとは?吊り足場のメリット・デメリットや組み方も解説
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吊り足場と他の足場の違いとは?吊り足場のメリット・デメリットや組み方も解説

2023年4月20日

工事現場で利用される足場には様々な種類があるため、現場の環境により適する足場を見極め、採用する必要があります。今回の記事では、多様な種類の中でも、吊り足場を取り上げ、その概要や他の足場との違い、吊り足場の種類、メリット・デメリット、吊り足場の組み方について解説します。
転落・墜落事故になりやすい作業や箇所を事前に察知し、安全対策を施しながら作業を進めることの大切さがわかりますので、建設業にこれから携わる方はぜひ最後までご覧ください。

 


 

吊り足場とは?

吊り足場は、高所から吊り下げられた足場を指します。吊りチェーンやパイプ、作業床、金具などを使用し、上部から吊り下げる形式で単管足場を設けるのが特徴です。吊り足場が設置される工事としては以下の通りで、溶接作業や鉄骨材のボルト締めなどの作業場として用いられます。

  • ビル建築・橋梁工事・プラント工事などの鉄骨組立て工事
  • 高層ビルや商業施設の吹き抜けなどの大空間におけるメンテナンス工事

 
足場を地上から組むことが不可能な高所での作業が大半となるため、安全管理を万全にして、設置作業や工事を行う必要があります。

 

吊り足場と他の足場との違い

通常の足場が地上から組み立てられているのに対して、吊り足場は上部から吊り上げられたものを指します。したがって、吊り足場と他の足場との違いは、上部から吊り下げられるか、地上から組立てられるかの違いになります。通常の足場では設置スペースの確保が困難な場合や危険を伴う場合は、吊り足場が採用されます。

 

吊り足場の種類

吊り足場の種類には、「吊り枠足場」「吊り棚足場」があります。

吊り枠足場

吊り枠足場は、既成の吊り足場を直接的に鉄骨梁に懸垂する方式の足場です。鉄骨の組立て工事において、鉄骨材のボルト締めや溶接作業、鉄筋組立て作業などを行うために設置されます。

 

吊り棚足場

吊り棚足場は、足場用鋼管・角形鋼管・丸太などを井桁状に組み吊りチェーンで吊り上げ、足場板を掛け渡して作業床とした足場です。鉄骨材のボルト締めや、溶接及び鉄筋の組立て作業などを行うために設置されます。

 

吊り足場のメリット

吊り足場のメリットとしては以下などがあります。

  • 工期を短縮できる
  • 高所に設置できる
  • 設置範囲が広い

 

工期を短縮できる

まず、構造物に2本のラックレールを設置し、ラックレールから吊り下げられる形で移動床(吊り足場)を設置します。移動床を設置した後は、軌道となるラックレールの延長作業のみとなるため、レールが設置された分だけ水平方向に移動できます。通常の足場と比較して、高所になればなるほど足場の組立てに要するパイプや床材などの資材を減らすことができ、それによって作業時間も短くなるので、工期の短縮につなげることができます。

 

高所に設置できる

高所における工事の際、地上に足場を組立てることが困難なケースでは、吊り足場は効果的です。例えば、川の水面から数十mの高さにある橋を工事する場合、川に足場を支える柱を設置して足場を組み立てると、降雨により川の流れが増したときに流されてしまうため、大事故に発展しかねません。そういった場合吊り足場では、川の水面から高い場所でも設置できるので、メリットと言えるでしょう。

 

設置範囲が広い

吊り足場は上部から吊り下げられた足場となるため、地上の影響を受けません。そのため、高所作業の際に広範囲に渡って作業可能となります。

 

吊り足場のデメリット

吊り足場のデメリットとしては以下などがあります。

  • 落下事故のリスクがある
  • コストが高くなる傾向にある

 

落下事故のリスクがある

他の足場と比較すると地面との接点が無いため、不安定になりやすく、少しの不注意が大事故につながるリスクがあります。例えば、吊りチェーンに緩みがあることが原因で足場が傾き、工具や資材の落下事故が発生することも考えられます。

 

コストが高くなる傾向にある

吊り足場の単価は、地上から組み立てる通常の足場の単価と比較して高くなります。下表は、ある企業の足場の単価表です。

通常の足場
住宅、小規模修繕工事(工期60日以内)
吊り足場
2F 一側足場 500円/㎡ 3,500円/㎡
2F 本足場 700円/㎡
3F 一側足場 600円/㎡
3F 本足場 800円/㎡
4F 一側足場 800円/㎡
4F 本足場 900円/㎡
5F 一側足場 900円/㎡
5F 本足場 1,000円/㎡
6F以上 要相談

※参考元:「料金」株式会社真田建設

 

吊り足場の組み方

吊り足場の組み方の手順は、以下の通りです。それぞれ解説します。

  • 位置合わせ
  • 有資格者の配置
  • 点検
  • 作業範囲の確保
  • 組み立て作業
  • 解体作業
  • 後片付け

 

打ち合わせ

体調不良者による無理な作業への参加や新規作業員に対する作業内容についての配慮の欠如などは事故につながる可能性があります。その為、打ち合わせでは当日の作業員について、作業可能人数、新規作業員、健康状態などの確認を行います。
また、リーダーを中心として、想定される危険な作業や箇所などを作業員全員で点検・確認することにより、作業内容の改善を図ることができます。さらに、危険な作業や箇所に対する共通認識を持てば、お互いに要所で助け合うことができ、事故防止にもつながるので、心がけるとよいでしょう。

 

有資格者の配置

足場の設置には、特別教育を受講した「足場組立等作業主任者」「玉掛け技能講習修了者」の配置は必要となり、適切な指示の有無が作業進行に対して大きく影響を及ぼします。そのため、有資格者の配置漏れの無いように注意が必要です。

 

点検

作業員の保護具(ヘルメットなど)や使用工具、組み立てる資材の点検を実施し、不良品などがあれば速やかに交換や修理を行います。人命に直接影響する安全帯や手すりなどは万全な状態にしておく必要があり、問題があれば確実に交換しておく必要があります。

 

作業範囲の確保

作業関係者以外の立ち入りを禁止するために、バリケードやロープを使用して作業範囲の確保を行います。落下物の可能性もありますので、囲いは確実に行いましょう。

 

組み立て作業

組立て前に、保護具・使用工具・資材の点検を再度行います。

<スタンション・親綱など安全設備の設置>

スタンション※1の間隔は、10m以内に設置します。親綱※2には命綱を掛けるため、掛けやすい位置に設置することが望ましいでしょう。親綱設置の際は、身の回り近くのチェーン取り付け孔などに命綱を掛けて行います。

※1 スタンション:工事期間中に高所作業や開口部付近などで墜落の危険性がある箇所に設置する仮設手すり。仮設用の手すりとして親綱を使用する際には、支柱としても使用。
※2 親綱(おやづな):足場工事において、命綱のついたベルトである安全帯を引っかけるためのロープ。親綱は支柱や手すり(スタンション)に掛けることが可能。

<親御パイプの設置>

作業時、命綱を親綱につなぎ、吊りチェーンの間隔は約1,200mmとします。単管ジョイント部分は自在クランプで緊結し、2カ所以上で使用することで安全性を担保します。バランスが崩れることによる転落や、使用工具・資材の落下に注意を要しますので、資材の運搬時には声を掛けあうなど、安全に配慮しながら互いの動作に注意を払うことが大切です。

<ころばしパイプの設置>

親御パイプ設置と同様に命綱を親綱につなぎ、ころばしパイプの間隔は約900mmとします。親御パイプと注意点は同じです。

<足場板の敷き詰め>

足場板は、端部を重ねることなく突合せ、継手とします。足場板の端部のはね出しは、100~200mm以内とします。緊結紐などで落下しないようにし、3点支持を確保しながら安全対策を施します。

<パイプの設置>

建てパイプの間隔は、約1,800mmを基準とします。最下段の布パイプ設置高は、作業床より1m以内とし、必要であれば中さんを設置します。チェーンの設置を確実にし、緩みが無いよう注意が必要です。緩みが生じると、破断や外れによる倒壊や崩落事故に繋がる可能性がありますので注意しましょう。

<落下防止網の設置>

網の継ぎ手部分が引張力により開かないように注意を要します。結び紐は、急激な荷重がかかるなどの衝撃に対して耐えられる丈夫なものを使用します。

 

解体作業

工事が完了すると、吊り足場の解体作業を行います。

<作業範囲の確保>

危害が出ないようにバリケードやロープなどで区画し、立入禁止の表示を行います。安全に解体作業ができるように、状況により別途、親綱やスタンションを設置します。

<落下防止網の外し>

落下防止網を外し、整理整頓して所定の箇所にまとめます。

<足場取り外し>

全ての足場を取り外すのではなく、作業に必要な範囲の足場を残しながら、不要な足場から取り外します。

<ころばしパイプの取り外し>

ころばしパイプを取り外す際、各親御パイプに作業員1名を配置し、横一線で取り外すことが重要です。

<親御パイプの取り外し>

親御パイプ1本に連結する「ころばしパイプ」を取り外し、親御パイプを取り外します。その際、親御パイプの吊りチェーンも同時に取り外すと、効率が良くなるのでオススメです。

<吊りチェーンの取り外し>

吊りチェーンを取り外し、同時にタッチアップ※3も行います。

※3 タッチアップ:足場材が邪魔となり、部分的に塗装が出来ていなかったり、工事中に誤って塗装に傷がついたりした場合、修正塗りを行うこと。

<資材移動>

吊り足場で使用した資材を移動します。必要に応じてクレーンなどで荷下ろしを行い、危害が及ばないように注意を払います。

 

後片付け

使用工具や資材、結束線、釘、残材などを整理して設置します。その際、荷崩れが起きないように施しておくと強風などがあった場合安心です。使用した工具などに損傷がないか、数量に不足がないかなどを点検・確認します。最後に作業箇所の清掃を行い、美化に努めます。

 

まとめ

吊り足場の概要や他の足場との違い、吊り足場の種類、メリット・デメリット、吊り足場の組み方について解説しました。
吊り足場は、高所での作業となるため、打合せ・点検などを入念に行い、組立作業を行うことが大切です。転落・墜落事故になりやすい作業や箇所を事前に察知し、安全対策を施しながら作業を進めるようにするとよいでしょう。

 


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