2023年4月14日
建物を建てる際に最も重要な工事は基礎です。基礎が設計図書や仕様書、各種規定通りに造られて初めて建物の耐久性や耐震性、耐火性、耐風性、耐水性などの機能を発揮します。そのためには、工事が規定通りに行われているかを把握する必要があり、工事の手順や注意点を理解しておくことが重要になります。この記事では、基礎工事の概要や種類、かかる期間、費用の目安、8つの手順、失敗しないための注意点について解説します。
基礎とは、地面と建物の間に介在するつなぎ部分の構造体のことです。基礎の役割は、建物の自重による垂直力や地震の揺れなどによる水平力などを建物から地盤に伝達することで、それにより、建物全体が傾いたり、建物の一部が地中に沈んで傾くのを防ぐことができます。
基礎の構造は鉄筋コンクリート造となり、部位でいうと底盤・立上り・地中梁・杭などから構成されます。
基礎工事は、地盤の状況や建物構造、建物自重などにより工事の種類が異なります。基礎工事は、「杭基礎」と「直接基礎」の2種類に分けられます。
杭基礎 | 地盤の表層部が軟弱地盤により、建物を支持することができない場合に採用される。地盤に杭を貫入して固い地盤に到達させ、支持力を得る。 |
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直接基礎 | 地盤表層部かその直下に堅固な地盤が介在する場合に採用される。地盤の直上に基礎を造る。 |
地盤が軟弱だと、杭基礎が採用されるケースが多くなります。杭基礎を採用すると、軟弱地盤であっても建物が安定するだけでなく、地震による液状化の対策にもつながります。また、杭基礎の種類には、支持杭と摩擦杭があります。
支持杭は、地盤が軟弱の場合に用いられる杭基礎で、鋼管杭や柱状改良といわれる杭を硬い地盤(支持層)まで打設し、基礎を支える工法です。支持杭の長さは、数メートルから数十メートルにも及ぶケースがあります。
摩擦杭は、以下の場合に用いられる杭基礎です。
表面を凹凸状にした杭を地盤に打設することで、杭と土との間に発生する摩擦力により基礎を支えます。したがって、硬い地盤まで杭を打設する必要はありません。
支持杭も摩擦杭も、実際には杭基礎だけで進められることはなく、布基礎やベタ基礎などの下部に杭を設置するケースが多いです。
ベタ基礎は直接基礎の一種であり、床下前面を鉄筋コンクリートで覆って基礎を造り、建物からの力を基礎全体で地盤に伝える構造です。地盤の強度が比較的小さい場合でも利用でき、また、地震の揺れに対しても強くなります。さらに、防湿シートを設置するため、湿気やシロアリ対策にも有効となり、建物寿命を延ばしてくれます。基礎を造る上での鉄筋やコンクリート量は多くなりますが、土砂の掘削量や型枠使用量は比較的少なく、施工もしやすいというメリットがあります。
SRC基礎は、蓄熱床工法ともいわれる工法です。他の直接基礎(ベタ基礎、布基礎、独立基礎)と違って、床下に砂利やコンクリートを敷き詰めるため、空間がなく密閉構造となります。そのため、地中からの熱を伝えやすく、冷暖房効果が見込めます。
布基礎は直接基礎の一種であり、主要な柱や壁の下だけに連続して基礎を造り、建物からの力を線で地盤に伝える構造で、日本の木造住宅において、古くから用いられてきた基礎構造です。地盤に接する面積がベタ基礎と比較すると小さいため、地盤の強度が比較的大きい土地で利用できます。ただし、床下に対して土がむき出しとなるため、湿気対策をしっかり施して、カビやシロアリなどの発生を抑制する必要があります。
独立基礎は直接基礎の一種であり、主要な柱の下だけに基礎を造り、建物からの力を点で地盤に伝える構造です。布基礎と比較すると、さらに小さいため、地盤の強度が大きい土地に利用できます。
建物全体を完成させるために必要な期間は、戸建て住宅の場合、建築構造の違いにより3~6カ月ほどで、そのうち基礎工事にかかる期間は約1カ月になります。
直接基礎を造る基礎工事の単価相場は、以下の通りです。
立地によって地盤の土質や強度は様々であり、また、建物によって階数や建築構造も変わるため、基礎工事の単価には大きな値幅が生じます。
基礎工事を行う前に地盤調査を行い、その結果に基づいて基礎の種類を決定します。地盤の強弱の度合いによって、建物荷重や地震力などに耐えられる基礎とする必要があります。地盤の強度が比較的小さい場合にはベタ基礎を採用し、比較的大きい場合には布基礎を採用します。下記にて、ベタ基礎と布基礎の工事手順について解説します。
基礎工事には、以下の8つの手順があります。各手順について解説していきます。
①地縄張り
②掘削工事
③砕石を敷く
④捨てコンクリートの施工
⑤鉄筋組み
⑥型枠の設置
⑦コンクリートの打設
⑧養生・型枠外し
地縄張りは、工事現場で設計図書の建物配置図などと照合しながら、縄やビニール紐などを用いて建物の配置を確認する作業です。着工後最初の作業であり、建物の正確な位置を決定する重要な作業となります。地縄張りを施した後、遣り方を出す作業となります。
遣り方とは、建物配置図や1階平面図、矩計図、断面図などと照合しながら、建物の位置や基礎の高さなどの情報を敷地に記録するために造られる仮設物のことです。
掘削工事は、基礎杭や基礎を造るために地盤を掘り起こす作業です。基礎の底盤となる最下層部分まで土砂を掘削する必要があり、土留め工事や排水工事などの工事と同時並行で行われることが多くなります。掘削作業中に地中埋設物や既存配管などが見つかった場合、ケースによっては重機が利用できず、手掘りによる作業が必要になることもあり、その際は費用と工事日数が別途必要になりますので注意が必要です。
また、寒い地域では、凍結による影響を防ぐため、凍結深度まで基礎の底盤底を下げる必要があります。
掘削工事後に、砕石を敷き詰め、ランマーといわれる機械を用いて転圧(締固め)し、砕石の密度を高くして地面を固めていきます。地盤を締め固めることにより、建物が沈むことを抑制します。地盤を締め固める作業を「地業」といいます。
地盤を締め固めた後、砕石の上から湿気を防ぐための防湿シートを敷均します。次に、以下を実施するためにコンクリートを流すことがあります。その際に流すコンクリートを「捨てコンクリート」といいます。
設計図書の基礎配筋図と照合しながら、正確に鉄筋を組み上げていく作業を配筋といいます。基礎は鉄筋コンクリート造となり、設計図書や仕様書で決められた仕様の鉄筋を基礎配筋図通りに組立てます。配筋は、基礎の強度や耐用年数に直接影響する工事となります。点検事項は、以下の通りです。
型枠は、コンクリートを流して締め固めるために設置される枠材です。型枠材として、木製や鉄製のものが用いられます。型枠は、捨てコンクリートに描いた墨出しを基に、施工図に沿って鉄筋との空き間隔に配慮しながら組み立てられます。
型枠の設置が完了すると、コンクリート打設前に、建物の土台と基礎を連結するアンカーボルトといわれる金属製の部材を設置します。
コンクリート打設とは、型枠の中にコンクリートを流し込む作業のことです。流し込む際、バイブレーターなどを用いて、気泡を抜く作業と、鉄筋と鉄筋の間にもコンクリートを隙間なく行き渡らせる作業を行います。
コンクリート打設後、型枠を外すまで一定の日数を経過させ、コンクリートの強度を高めていきます。また、コンクリートが露出する箇所に対して散水やシートを被せます。これを「養生」といいます。コンクリートは、固化前に衝撃を与えたり急激な乾燥があるとひび割れや硬化不良につながるため、湿潤養生を行う必要があるのです。湿潤養生は行うべき日数が設定されており、以下によって期間が決まります。
建物の計画供給期間の級 | 短期及び標準(10N/㎟以上の強度発現) | 長期及び超長期(15N/㎟以上の強度発現) |
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急強ポルトランドセメント | 3日以上 | 5日以上 |
普通ポルトランドセメント | 5日以上 | 7日以上 |
その他のセメント | 7日以上 | 10日以上 |
養生期間を経て、型枠を外します。コンクリートに不良な箇所が発生していないか、ひび割れや仕上がりの状態に問題はないか、アンカーボルトにずれや曲がりはないかなどを確認します。
基礎工事で失敗しないための注意点として、以下などが挙げられます。
基礎には、配管用の穴(スリーブ)を設けますが、スリーブが鉄筋に接しているケースが少なからずあります。この状態でコンクリートを打設すると、スリーブと鉄筋の間にコンクリートが入らず、スリーブ周りのかぶり厚さが不足してしまいます。
かぶり厚さは、配筋されている鉄筋からコンクリート表面までの距離(厚み)のことです。かぶり厚さを厚くすることで、鉄筋は外からの影響を受けずに済み、長持ちします。逆にかぶり厚さが薄くなると、鉄筋が外からの影響を受けやすくなり、劣化が進む原因となります。例えば、降雨などにより水がコンクリートの中へ浸水し鉄筋に接触すると、その箇所から錆(サビ)が発生し、鉄筋が劣化・損傷します。その結果、建物強度が小さくなる原因となり、建物の劣化・損傷へとつながります。
また、コンクリートの密度も重要になります。密度は水とセメントの比率により決まりますが、セメントの比率が高いほど密度が高くなります。密度が高くなると、耐久性も高くなります。
基礎表面をコーティングすることにより、アルカリ性であるコンクリートの中性化を防ぐことができます。コンクリートがアルカリ性を維持していれば、鉄筋が錆びることはありません。また、コーティングすることにより、コンクリート中の必要な水分を逃がさずにコンクリートの水和反応が続きますので、強度が大きくなり続けます。
基礎工事の概要や種類、かかる期間、費用の目安、8つの手順、失敗しないための注意点について解説しました。基礎工事の品質により、建物の耐用年数が左右されるといっても過言ではありません。そのため、配筋やコンクリート打設、養生は特に重要になります。一つ一つの工事手順を丁寧に行い、注意点に配慮しながら基礎工事を進めることが大切になります。