2025年2月21日
部屋の中と外の空気を入れ替えることを、換気と言います。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、空気の質への関心が高まり換気の重要性が注目されていることは、誰もがご存知でしょう。
過去にはシックハウス症候群が社会問題化したために、建築基準法では換気回数の細かい基準が定められています。そこで本記事では、室内空気品質を保つために知っておきたい換気回数等の基礎知識について解説します。換気システム設計の際に必要な情報ばかりですので、施工管理に興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
日本家屋は、もともと隙間の多い構造であったために、意識的な換気は必要ありませんでした。一方、近年の建物は空調効率向上を重視した設計であることから、機密性が高いという特徴があります。
そのため室内は密閉空間となり、二酸化炭素濃度が上がりやすい環境です。二酸化炭素濃度が高いと倦怠感、息苦しさや眠気を感じやすいほか、シックハウス症候群やカビの発生を誘発しやすくなります。
建物・部屋の大きさや使用する人数によって、十分な換気の目安となる換気回数と換気量は変わってくることを知っておきましょう。ここでは換気回数とは何か、その計算方法についてご紹介します。
換気回数とは、英語でACH(Air Change Per Hour)と表記される通り、室内の空気の換気の程度を示す指標です。居室内に供給される、あるいは排出される空気量(必要換気量)が部屋の容積に対して占める割合のことで、換気係数とも呼ばれます。
室内の空気を入れ替える回数を1時間当たりで示す数値なので、換気回数の単位は「回/h」であり、換気設備を設計するときの性能指標などに使われます。確保すべき換気回数の目安は、一般住宅の居室の場合は1時間当たり0.5回、一般的な事務執務室の場合は1〜2回です。確保すべき換気回数が分かれば、だれでも適切に換気を行うことができます。
換気回数は、必要換気量を部屋の容積(床面積×天井の高さ)で割ることで求められます。計算式にすると、下記の通りです。
換気回数(回/h)=必要換気量(㎥/h)/ 容積(㎥)
換気回数を算出する際は、事前に部屋の必要換気量を求めておかなくてはなりません。必要換気量の計算方法については、後述するのでぜひ参考にしてみてください。
時代とともに移り変わる住宅事情やライフスタイルに応じて、建築基準法も改正されています。
2007年7月、建物における耐震偽装を防ぐために、耐震構造審査の厳格化を目的とした一部改正が行われました。それ以前に導入されたのが、通称「シックハウス対策規制」と呼ばれるものです。シックハウス対策規制が盛り込まれた改正建築基準法は、2003年7月1日から施行されています。
昔の家は建物自体が呼吸をしていましたが、現在の家は密閉性が高まり断熱性は向上したものの、建物自体は呼吸しなくなりました。これに加え、化学物質を発散する建材や家庭用品の利用が増えたことによって、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドの室内濃度を下げる規制が導入されたのです。
ここでは、改正建築基準法とシックハウス対策としての換気回数についてご紹介します。
どのような換気設備が、自分自身の住まいに設けられているのか知っている人は、あまり多くないかもしれません。ここでは、まず建築基準法における換気の規定について見ていきましょう。
建築基準法においては、住宅等の居室での通常の生活で発生する二酸化炭素などによる環境の悪化を防止するために、下記の2つが義務付けられています(法第28条関係)。
1.開口部を設けること
2.換気設備を設置すること
具体的には、次の4つの換気設備等の種類と要件が定められています。
換気設備等の種類 | 要件 |
---|---|
①開口部を設ける | 居室の床面積に対して、1/20以上の換気に有効な開口部を設ける |
②自然換気設備 | 換気上有効な給気口及び排気筒を設け、室内外の温度差や外風圧により換気を行う |
③機械換気設備 | 換気上有効な給気機及び排気機を組み合わせて換気を行う |
④中央管理方式の空気調和設備 | 中央管理室で換気や冷暖房などを一元的に監視・制御を行う |
シックハウス対策の観点から、全ての建築物に「機械換気設備の設置」が義務づけられています。ホルムアルデヒドを発散する可能性がない建材を使用している建物であっても、家具からの発散が考えられるために、機械換気設備の設置が必要です。
建築基準法改正前は、キッチン・バス・トイレ中心の換気が定められていました。改正後は、すべての居室(家全体)の24時間換気が必要になり、一定の換気回数を満たした機械換気設備、いわゆる「24時間換気システムの設置義務化」が実施されたのです。ここでは、24時間換気システムの設置義務化のポイントを2つ見ていきましょう。
1つ目は、24時間換気システムには、下記の通り定められた換気回数を満たすことが求められている点です。
居室の種類 | 換気回数 |
---|---|
住宅等の居室 | 0.5回/h 以上 |
上記以外の居室 | 0.3回/h 以上 |
2つ目は、24時間換気システムには、下記の計算式によって算出した換気量を確保できる性能が求められている点です。
換気量(㎥/h)=上表の換気回数(回/h)×居室の床面積(㎡)×天井の高さ(m)
ただし天井の高さが一定以上であれば、必要な換気回数は緩和されることになっています。
また天井裏、床下、壁内、収納スペースから、居室へのホルムアルデヒドの流入を防ぐ必要性も規定されています。下記の3つのうち、いずれか1つの措置を行わなくてはなりません。
1.建材による措置
2.気密層、通気止めによる措置
3.換気設備による措置
換気設備による措置、つまり24時間換気システムによって居室へのホルムアルデヒドの流入を防ぐ場合は、天井裏や収納スペースなども換気できることが要件となります。
シックハウス対策の対象となるのは、全ての建築物の居室です。廊下・トイレ・浴室等は居室ではありませんが、居室と一体的に換気を行うケースでは居室とみなされます。例えば、通気が確保される引き戸、ふすま・障子、折戸、換気ガラリ・アンダーカットのあるドアを使用するケースです。
換気回数を算出する際には、事前に部屋の必要換気量を求める必要があることをすでにご紹介しました。ここでは、具体的な必要換気量の計算方法について、見ていきましょう。
必要換気量の計算方法は、部屋の種類や用途などによって異なり、下記の3つに大別されます。
1.1人当たりの専有面積から求める(建築基準法施行令第20条の2第2号)
2.床面積当たりの必要換気回数から求める(空調・衛生工学会規格「HASS 102 1972」)
3.室内の汚染進度から求める
それぞれの必要換気量の計算式について、見ていきましょう。
■1人当たりの専有面積から必要換気量を求める計算方法
必要換気量(㎥/h)=20×居室の床面積(㎡)÷1人当たりの占有面積(㎡)
■床面積当たりの必要換気回数から求める計算方法
必要換気量(㎥/h)=室の床面積当たりの必要換気量(㎥/㎡・h)÷床面積(㎡)
床面積当り必要換気量の参考値は、空調・衛生工学会規格「HASS 102 1972」に定められています。
なお、室内の汚染進度から求める計算方法は、水蒸気、ガス、塵埃(じんあい)などの換気因子によって異なることを知っておきましょう。
ここでは、実際に計算を行っていきましょう。
1人当たりの専有面積から必要換気量を求める計算例
部屋の広さ13.2㎡(8畳)、人数2人のケースでは、1人当たりの占有面積は「13.2m2÷2=6.6㎡」です。必要換気量は、次の通り導かれます。
20 × 13.2㎡ ÷ 6.6㎡ = 40㎥/h
床面積当たりの必要換気回数から求める計算例
まず、室の床面積当り必要換気量の参考値を調べましょう。ここでは空調・衛生工学会規格より5つの参考値をまとめました。
室名 | 標準在室密度(m2/人) | 室の床面積当たりの必要換気量(m3/m2・h) |
---|---|---|
事務所(個室) | 5.0 | 6.0 |
事務所(一般) | 4.2 | 7.2 |
レストラン・喫茶(普通) | 1.0 | 30.0 |
宴会場 | 0.8 | 37.5 |
ホテル客室 | 10.0 | 3.0 |
床面積70m2を持つ事務室(一般)のケースでは、必要換気量は次の通り導かれます。
7.2㎥/㎡・h × 70㎡ = 504㎥/h
換気は、快適で健康的な室内環境の維持に欠かせないものです。
パンデミックを経験したことから、国際労働機関(ILO)は労働安全衛生リスクの1つとして伝染リスクを上げており、室内環境制御の必要性について言及しています。室内環境制御のために、空気品質管理を可能にする換気システム設計を考慮すべきだとしているのです。
ここでは、効率的な換気に求められる換気回数の最適化と管理について見ていきましょう。
24時間換気システムの設置義務化に伴い、システムの稼働にはエネルギーが必要になります。そこで省エネを考える上で、換気効率の向上を意識することが大切です。
効率よく換気するためには、「空気の流れを作る」ことが重要になります。ここでは、空気の流れを作るために意識したいポイントを2つ見ていきましょう。
1.空気の出入り口を確保する
2.空気の出入り口の位置を離す
窓、ドア、換気扇は空気の出入り口だと意識して、空気の流れの妨げになるモノを置かないことが大事です。また空気の流れ道を短くしてしまうと、一区画しか換気できずに「よどみ」が発生します。吸気口と排気口の設置の際には、換気経路もうまくデザインすることが大切です。
近年では、ITテクノロジーや各種センサーが進化・普及しているために、空気の品質をデータとして見える化することも可能です。換気システムの設計と計画においては、24時間換気システムの設置義務化に伴い、省エネ施策も合わせて組み込む必要性が出てくる場合があります。
建物の用途や規模にもよりますが、ITテクノロジーや各種センサーの導入も検討すると良いでしょう。例えば、過剰な換気による消費エネルギー増大を避けるために、CO2センサーを導入し来客数の増減に応じて換気量を最適化しているショールームの事例があります。高機能コントローラを導入し、施設内空調機の一括管理と最適な運用の自動化も実現しているようです。
本記事では、換気回数の正確な計算方法やシックハウス対策として建築基準法で定められた換気回数について詳しく解説しました。室内の空気品質管理は、過去にはシックハウス症候群、近年ではパンデミックの影響で非常に注目されています。換気システム設計においては、快適性の追求はもちろん、省エネ・省コストを両立させる視点が必要です。