建設業界における建設コンサルタントの役割・業務内容と海外市場動向
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建設業界における建設コンサルタントの役割・業務内容と海外市場動向

2020年11月24日

社会インフラの計画、調査、設計、管理を行うのが、建設コンサルタントの仕事です。社会インフラには、道路・橋・トンネル・ダム・港・空港・河川堤防・海岸護岸・上下水道・電気・再生可能エネルギーなどがあり、国民生活を支える縁の下の土台に相当します。

この記事では、建設コンサルタントの役割・規定や業務内容、海外市場動向について解説します。

 

建設コンサルタントとは

建設業界における建設コンサルタントの法的根拠や登録制度、登録要件、主な受注先について解説します。

建設コンサルタントの役割・法的根拠

建設業は「建設業法」に則って規定されており、建設コンサルタントは「公共工事の前払金保証事業に関する法律」により定められています。その部分を下記に抜粋します。

公共工事の前払金保証事業に関する法律」第19条第3項(一部抜粋)
第十九条 保証事業会社は、左に掲げる事業の外、他の事業を営んではならない。
三 土木建築に関する工事の請負を業とする者又は土木建築に関する工事の設計若しくは監理若しくは土木建築に関する工事に関する調査、企画、立案若しくは助言を行うことの請負若しくは受託を業とする者(以下「建設コンサルタント」という。)~
参照元:「公共工事の前払金保証事業に関する法律」電子政府の総合窓口 e-Gov

 

建設コンサルタント登録規定

国土交通省告示による建設コンサルタント登録規定ですが、登録部門は21部門あります。また、事業部門別では13部門、各事業部門に共通の横断的部門として8部門あります。それらをまとめると下表の通りです。

部門 内容
事業部門
(13部門)
1.河川・砂防および海岸・海洋、2.港湾および空港、3.電力土木、4.道路、5.鉄道、6.上水道および工業用水道、7.下水道、8.農業土木、9.森林土木、10.水産土木、11.廃棄物、12.造園、13.都市計画および国土計画
事業部門に共通の横断的部門
(8部門)
14.地質、15.土質および基礎、16.鋼構造およびコンクリート、17.トンネル、18.施工計画・施工設備および積算、19.建設環境、20.機械、21.電気電子
参照元:「建設コンサルタント登録規定」(令和元年9月13日改正)「建設コンサルタント登録規定の解釈及び運用の方針」国土交通省

 

建設コンサルタントの登録要件

主に公共事業の計画・調査・設計・管理を担う建設コンサルタントの主な登録要件は下記の通りです。

技術士を専任技術管理者として、登録部門ごとに配置すること
専任技術管理者は、技術士法による第二次試験に合格して同法による登録を受けている技術士であることが必要です。また、常勤し業務に専任する必要があります。

財産的基礎・金銭的信用を有する者であること
法人の場合:資本金:500万円以上、自己資本:1,000万円以上
個人の場合:自己資本:1,000万円以上

参照元:「登録の要件」国土交通省

 

建設コンサルタントの主な受注先

建設コンサルタントの主な受注先は、中央官庁や地方公共団体となります。計画・調査・設計業務が主な仕事内容でしたが、公共事業の予算削減・効率化などが求められています。それに伴い、PFI事業(*1)による管理運営業務などの受注も増加傾向にあります。海外事業では、ODA(政府開発援助)によるJICA(国際協力機構)を通した受注が大半となっています。

*1 PFI事業:公共施設などが必要な場合、行政が資本投下をせず、民間が資本投下して公共施設を提供し、その後の運営・管理を任せる手法

建設コンサルタントと受注先(発注者)との関係を下図にまとめます。

国民
利用・設置要望 ⇩ ⇧ 社会インフラの提供
発注者
(中央官庁、都道府県、市区町村、外国政府、
国際機関、国際協力機構(JICA)民間企業など)
契約 ⇩ ⇧ 成果物の納品(設計・設計調査報告書など) 工事発注 ⇩ ⇧ 工事施工
建設コンサルタント
計画・調査・設計などのコンサルティング
建設会社(ゼネコン)・製造会社(メーカー)
構造物の施工、機械・建設資材の製造

 

建設業界における建設コンサルタントの業務内容

建設コンサルタントの主な業務内容は、計画・調査・設計となります。最近では、PFI事業に伴う運営管理業務も増加傾向にあります。

 

計画・設計

建設コンサルタントによる部門ごとの業務内容と主な受注先は下表の通りです。

部門 主な業務内容 主な受注先
道路・交通 総合交通計画策定、道路設計、橋梁設計、トンネル設計、擁壁や法面などの道路付属物設計、交通量調査、サービスエリア・パーキングエリア・道の駅の設計など 国土交通省地方整備局
都道府県土木部など
市区町村土木部など
鉄道 ルート計画・選定、橋梁設計、トンネル設計、駅舎設計、擁壁や法面などの鉄道付属物設計、乗降客数調査電気設備計画・設計など 鉄道・運輸機構
JR各社、私鉄各社
河川 総合治水計画・河川整備計画・総合水資源計画策定、河川流量調査(洪水・浸水解析)、堤防設計、ダム設計、防災情報システム設計、ハザードマップ作成、台風接近に伴うダム貯水量の事前放流の調整など 国土交通省地方整備局
都道府県土木部など
市区町村土木部など
河川関連特殊法人
砂防 砂防事業・施設計画作成、地滑り・雪崩などの調査・解析地滑り・雪崩・急傾斜地に対する施設設計、ハザードマップ作成など 国土交通省地方整備局
都道府県土木部など
市区町村土木部など
港湾 港湾計画策定、港湾利用者数・物流調査・解析、港湾施設設計、漁港設計、埋立て造成計画作成、取付け道路などの港湾付属施設の設計など 国土交通省地方整備局
都道府県土木部など
市区町村土木部など
空港 空港計画策定、空港利用者数・物流調査・解析空港施設設計、埋立て造成計画作成、取付け道路などの空港付属施設の設計など 国土交通省地方整備局
都道府県土木部など
上下水道 治水・利水計画策定、上水道基本計画策定、上水道設計、下水道基本計画策定、下水道設計、アセットマネジメント、都市型水害ハザードマップ作成など 市区町村上下水道部
上下水道運営管理者
造成開発事業者
都市計画 総合計画策定(地方自治体)、土地利用計画策定、土地区画整理事業の計画、中心市街地活性化の計画、都市再生計画作成、エリアマネジメント、公共・民間施設ごとのPFI事業作成など 都道府県総務部など
市区町村総務部など
都市事業関連特殊法人
公共民間施設開発業者

 

調査

建設コンサルタントによる調査項目ごとの業務内容は下表の通りです。

調査項目 主な業務内容
地質・土質 道路・橋梁・トンネル・ダム・建築物などの設計に伴う地質調査・地盤調査など
地滑り 地滑り発生危険個所における土質調査・地下水調査など
環境 道路工事・河川堤防工事・都市開発造成工事に伴う環境影響評価
生物調査:動植物の生息・生体状況の把握
公害調査:大気汚染・水質汚染・土壌汚染・騒音・振動などの把握
都市 人口動向調査、経済構造調査、災害に伴う避難計画作成の事前調査、都市構造解析調査、再開発事業に伴う制度・事業手法などの調査など
土地 地籍調査、固定資産税台帳調査、地下埋設物調査、地理情報調査など
文化財 遺跡発掘調査(試掘、本掘)、出土品調査、文献調査など

 

建設業界における建設コンサルタントの海外動向

2019年度に建設コンサルタントの海外受注が過去最高額となり、1,433憶7,000万円を記録しました。また、1件当たりの受注額についても過去最高額となり、2憶1,200万円を記録しました。
分野別の内訳を見ると、道路・鉄道などの運輸交通分野の受注額が最大となり、892憶3,000万円となっており、これは総受注額の62.2%を占めます。2番目が上下水道分野で160憶1,000万円(11.2%)、3番目がエネルギー分野で101憶4,000万円(7.1%)となっています。
地域別では、アジアが1,045憶2,000万円を記録し、72.9%を占めました。また、国別ではフィリピンが537憶9,000万円を記録し37.5%を占め、2番目はバングラデシュ、3番目はイラクとなりました。
海外建設市場は、東南アジアから中央アジア、中東へと徐々に移っていく傾向にあると言えるでしょう。

参照元:「建設コンサルの海外受注が過去最高、交通分野が増加」日経XTECH 2020/9/28

 

まとめ

建設コンサルタントの役割・規定や業務内容、海外市場動向について解説しました。
国内の建設業界における建設コンサルタントの主な業務内容は計画・調査・設計ですが、今後は運営管理・維持管理の割合が増加する傾向にあります。一方、海外の建設業界における建設コンサルタントの主な業務内容は、計画・調査・設計になります。特に新興国においては社会インフラ整備をこれから行う必要があり、海外受注高は年々増加しているのが現状です。

建設コンサルタントの今後は、国内市場では社会インフラの維持管理を、海外市場では社会インフラの新規構築に向けて、ノウハウを提供する役割を担うようになるでしょう。

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